それでもトランプが歴史的大統領だった理由|エマニュエル・トッド
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それでもトランプが歴史的大統領だった理由|エマニュエル・トッド

トランプ政権が行った“政策転換”が“今後30年の米国”を方向づけるだろう。/文・エマニュエル・トッド(歴史人口学者)

<この記事のポイント>
▶︎トランプは敗北したが、トランプ政権の政策転換はおそらく今後30年のアメリカのあり方を方向づける
▶︎今回の大統領選挙の争点は「経済」から「人種問題」にすり替わった。社会の分断はますます深刻化する
▶︎「アメリカ内の再統合」に向かわせる唯一の要素は、中国との対峙だ

トランプが今後30年を方向づけた

トッド04(par Louise)

トッド氏

本誌前々号で「それでも私はトランプ再選を望む」という見解を述べましたが、米国大統領選はバイデンの勝利に終わりました。この選挙結果は「米国の民主主義が復活したことの証しだ!」「自国ファーストから米国が世界に戻ってきた!」と、米国内だけでなく世界中で、概ね評価されています。「過去4年間のトランプ政権への不満や批判」がそう言わせているわけですが、私はむしろ「トランプこそ米国大統領として“歴史に足跡を残す”ことになるだろう」と見ています。

トランプは下品で馬鹿げた人物であり、私自身も人として、とても許容できません。しかし、今回再選できなかったとはいえ、過去4年間にすでになされたトランプ政権による“政策転換”が、おそらく“今後30年の米国のあり方”を方向づけることになる。「保護主義」「孤立主義」「中国との対峙」「ヨーロッパからの離脱」というトランプが敷いた路線は、今後の米国にとって無視し得ないもの。その意味で“トランプは歴史的な大統領”である、と見ているわけです。

今回の大統領選挙を見ていて抱かざるを得なかった最大の疑問は、「勝利したとは言っても、結局のところ、バイデンとは何か? 民主党とは何か?」です。

バイデン陣営が最も前面に打ち出したのは“反(アンチ)トランプ”。しかし“反(アンチ)”のみで自らを定義するのは、あまりに“空虚”です。あるいはそもそも“空虚”だから“反(アンチ)”でしか自己を表現できないのです。

トランプ

トランプ大統領

“反(アンチ)”でしか表現できない民主党

民主党が打ち出したもう一つのスローガンは“反(アンチ)コロナ”です。

もしコロナの流行が起きていなかったら、トランプが再選していた可能性が高かったでしょう。というのも、トランプの経済政策の効果が現れ、コロナ前まで米国経済は非常に好調だったからです。

もちろん、コロナの感染拡大は無視してよいものではありません。「犠牲になるのは若者か、老人か」(本誌2020年7月号)でも述べたように、私は決して“厳格なロックダウン主義者”ではありませんが、トランプ政権のコロナ対応には問題もあったと思います。しかし“コロナ対応”それ自体は、本来の意味での“政治的選択”ではありません。大統領選挙で有権者に問うような“政策”ではないのです。

“反(アンチ)トランプ”と“反(アンチ)コロナ”。この2つのネガティブな形でしか自己定義できない民主党が“(空虚な)政策”として無理矢理ひねり出したのが、「人種問題」「黒人問題」です。それに対して“(実のある)政策”として「経済問題」を打ち出したのは、トランプの方です。本来の意味での“政治”は「人種」ではなく「経済」を問題にしなければなりません。ところが、それができないからこそ、民主党は「人種問題」に特化したのです。

そもそも「人種問題」を“政策”として掲げることは、「人種」というものを“本質化”してしまう恐れがあります。「黒人」「白人」といった“カテゴリー”や「人種」という“概念”を絶対視すること自体がある種の“人種主義”に陥る危険があるわけです。いまの民主党には、まさにその傾向が見られます。

今回の投票行動の実態を掴むために、私は2種類の出口調査を用いました。それによると、ある種の“寡頭支配”が見えてきます。大学院卒、博士号取得、名門大学卒といった“超高学歴層”と年収20万ドル(約2000万円)以上の“富裕層”の多くがバイデンに投票しています。米国社会で権力を握る“超高学歴層と富裕層の連合体”がバイデン側についたわけです。

2016年の大統領選と比べると、この時も“超高学歴層”はクリントンに投票していますが、“富裕層”の多くはトランプに投票しました。ところが今回、本来の傾向としては共和党支持であるはずの“富裕層”の票の多くがバイデンに流れました。

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バイデン氏

ちなみに、この“超高学歴層と富裕層による寡頭支配”の構成員は、大部分は白人ですが、少数ながら黒人も含まれ、とくに高学歴のアジア系も含まれています。

そして黒人――「黒人」と言っても、アファーマティブアクション(積極的格差是正)の恩恵を受けた一部の「高学歴で富裕層の黒人」と大部分の「低所得層の黒人」は本来分けて考えるべきですが――の87%がバイデンに投票しています。

「それでも私はトランプ再選を望む」(本誌前々号)で指摘したように、「黒人低所得層」にとって好ましいのは、本来、トランプの政策の方です。ところが「黒人低所得層」は、自らの「階層的利害」に反した投票をしてしまっている。「人種問題」を掲げる民主党によって彼らは“疎外された”と言わざるを得ません。

「鍵を握るだろう」と私が注目していた「ヒスパニック票」は、3分の2がバイデンに投票しています。ただし、前回より票を増やしたのはトランプの方で、やはりヒスパニック票が“激戦州の鍵”となり、テキサス州、フロリダ州でのトランプの勝利につながりました。とくにフロリダ州では、ヒスパニック系の大半がトランプに投票しています。

この点、トランプは、最高裁判事にエイミー・バレットを指名しましたが、“戦術ミス”と言えるでしょう。候補に挙がっていたヒスパニック系のバーバラ・ラゴアを指名していたら、ヒスパニック系の票はさらに伸びたはずです。

いずれにせよ、「人種問題」に特化した民主党は、「当然、ヒスパニック系は自分たちに投票する」と思い込んでいたのですが、そうではなかったのです。

争点が「経済」から「人種」に

さらに投票行動の実態を詳しく見ていくと、「2つの党の対立」というよりも「2つの社会ビジョンの対立」という深刻な“分断”が生じていることが分かります。

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