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2022年6月号|三人の卓子 「文藝春秋」読者の感想文

歴史に学べ

5月号を手にした現時点(4月9日)で、ロシアによるウクライナ侵攻はますますエスカレートしている状況である。まさか21世紀にあってこのような惨事が起きるとは、と世界中の人々が驚いているだろう。

特集「ウクライナ戦争と核」の一本、中西輝政氏の『第3次世界大戦の発火点』には感銘を受けた。中西氏が論じるように、現在のウクライナの悲劇は、その地政学的な立位置と歴史によるのだろう。ロシアという大国の隣にある限り、その運命からは決して逃れることはできない。「気の毒」という以外に言葉が見つからないほどである。

岸田政権はウクライナに対して人道支援、ロシアに対しては経済制裁を様々なかたちで実行している。これは日本として当然のことであろう。プーチンがこの愚行を止めるまで根気強く実行していくべきである。

歴史は繰り返すとはよく耳にするが、人類はこれまでの歴史からは何も学習することなく、平然と人殺しを正当化してしまう生き物なのだ。

昔観た映画の中で、「平和とは戦争と戦争の間にわずかに生まれる休憩みたいなものだ」というセリフがあったのを思い出した。今はそのセリフが現実にならないことを願うばかりである。(木村勝久)

ゼレンスキー大統領の無事を

5月号、岡部芳彦氏『ゼレンスキー「道化と愛国」』を拝読した。

地位が人を育てるという言葉があるが、まさにウクライナのゼレンスキー大統領にあてはまるのではないかと、私は考えている。

2019年4月、ゼレンスキー氏は大統領選挙において、当時の現職ポロシェンコ氏を破って当選した。元コメディアンという経歴もあり、政治手腕に疑問を持たれると共に、その後も“コメディアンあがり”とどこか色眼鏡で見られることもあった。

今年、2月24日にロシアがウクライナに侵攻した。開戦前は、ウクライナの首都キーウは数日で陥落するのではという見方が少なくなかったし、ロシア国営通信が誤配信した、プーチン大統領の勝利宣言らしきものでもそれは明らかになっている。

しかし、実際にはキーウではロシア軍の攻撃を耐え抜き、ロシア軍は撤退を余儀なくされた。欧米が供与している武器や物資が役立っていることはもちろんあるが、ゼレンスキー氏がキーウにとどまり、ウクライナ国民に徹底抗戦を呼び掛けていることが大きいのではないだろうか。

昨年8月にアフガニスタン政府がイスラム主義勢力タリバンの攻撃で崩壊した。その際、ガニ大統領は首都カブールから逃亡して批判を受けた。ロシアには、ウクライナ侵攻前、ゼレンスキー氏が元コメディアンということで見下し、ガニ氏同様にすぐに逃げ出すという考えもあったのかもしれない。

3月、英紙タイムズはロシアがゼレンスキー氏に対して、暗殺を3回仕掛けたと報道していた。今後も暗殺や身柄拘束の恐れはあるだろう。

ゼレンスキー氏は今やウクライナ国民統合の象徴でもあると考える。ロシアとの戦闘がどのような形で終結したとしてもウクライナの復興は困難を極めるであろう。

何とか生き延び、戦後のウクライナの復興にまで尽力してもらいたい。(永作肇)

クマとヒト

5月号の伊藤秀倫氏による臨場感あふれるルポルタージュ『羆を撃つ(下)』をいくぶん緊張気味に読んだ。

クマ、特に北海道に棲むヒグマの生態や人身被害についての記事を読むと、どうしても緊張する。20代半ばまで、北海道の僻地で暮らしていただけに、山中で何度かヒグマに遭遇した経験がよみがえるからだろうか。山の中、特に単身で行動中にヒグマを目撃したときの全身にまとわりつく恐怖は容易にはぬぐえない。

一方で、そんなヒグマと対峙してみたいというハンターの気持ちも理解できる気がする。登場するハンター・岡田崇祚氏は、若い頃はヒグマに一対一で勝負を挑むのが好きだったと話している。仕留めたヒグマの数が自慢だった、とも。しかしそのうち、その命を頂戴する重みを実感するようになったという。

上中下の3回に分けて掲載された本記事だが、伊藤氏が、岡田氏の自宅でヒグマの肉を含味しつつ聞き取っていくお話には興奮を禁じ得ない。

北海道のヒグマに限らず、本州のツキノワグマも生息数を増やしていると聞く。

クマと人間がどう共生していけばよいのか。ハンターたちの知恵も借りながら考えていかなければならないだろう。(土藤国和)

わが道を貫く

70~80年代はアイドル全盛期。山口百恵さんや松田聖子さんなど女性アイドルのみならず、男性の郷ひろみさん、野口五郎さん、西城秀樹さんの「新御三家」の人気も凄まじかった。

コンサートや出演するテレビ番組はもちろん、ブロマイドやレコードなど、インターネットのなかった当時。現在はスマホ一つで彼らの動向がチェックできるが、私生活がベールに包まれていたあの頃、アイドルには夢と憧れを抱いたものだ。

歌番組の数そのものが激減するなか、郷さんはいまだ紅白歌合戦にも出場し続け、コンサートでも歌にダンスにと披露するタフさを持ち合わせている。

5月号『プラチナの70代へGO!』では、ジャニー氏の命名だという「郷ひろみ」に恥じない生き方や譲れないアイデンティティを強く持つさまを感じた。デビュー50周年を迎えてもなお、オン・オフの意識なく、常に「郷ひろみ」でいることにこだわりがあるようだ。

70年代後半からは「ザ・ベストテン」などの歌謡ランキング番組には「ヒットする曲が必ずしもいい曲ではない」と出演を拒否し、自身のパフォーマンスをきちんと見せられる番組にしか出演しなかったのも彼らしいとうなずける。わが道を貫く生き方に共感した。(吉沢央有)

「新婚さん」とともに

5月号『新婚さんさようなら!』の桂文枝さんのお話はとても興味深いものでした。51年もの間、司会者として続けてきた「新婚さんいらっしゃい!」を勇退するにあたっての想いがひしひしと感じられ、読みながら涙が出てきました。

文枝さんは「新婚さん」が始まった翌年に結婚され、昨年奥様を亡くされたとのこと。まさに、「新婚さん」と共にご自身の結婚生活を歩んでいらしたのですね。

私にとっては、幼い頃は両親や兄弟と、結婚してからは夫とずっと見てきた番組。文枝さんの最後のパートナーの山瀬まみさんは私と同い年。

20代でアイドルだった山瀬さんがパートナーになったときは、失礼ながら「大丈夫かしら」と思いましたが、結果的に7人のパートナーの中でもダントツに長く務めあげたことになりました。文枝さんがコケたときも面白いツッコミをしながら、手早く椅子を直していたのも忘れられません。

「結婚」「夫婦」についてあらためて考える事が出来た気がします。落語家としての文枝さんの今後ますますのご活躍をお祈りしています。

(中山裕紀子)

温度感ある文章を

清武英利氏による連載『記者は天国に行けない』第4回「文と度胸」には、文章を書く極意が記されている。

「頭へボン」

「フワフワフワッと書いて」

「ストンと落とす」

「キュッと結ぶ」

これを読んで吹き出した。まるで、大阪の人が道順を教えているのと同じだ。大阪ではこれで何もかもが通用する。禅問答でもなんでもないのだ。言い得て妙である。実際の書きぶりと読み手の受け止め方で上質な文章になるか、そうでないかが決まるのだろう。

紋切調の記事ではなく、自分にしか書けない特ダネを工夫し、わかりやすい文章を書く。特ダネと文章で立てば、会社におもねる必要はない。

これは新聞記者に限ったことではなく、勤め人すべてに共通するのではないだろうか。仕事は指示通りにこなすだけでなく、創造と機転が必要なのである。

文章を書くにせよ、目に見える事実こそ明記せねばならないのかもしれない。何事にも臨場感が必要なのだ。

その現場の空気を、どのような言葉でどう表現し、出来るだけ多くの人へと伝え広めるか。表現の手段が多様化し、複雑になっても、人へ伝えるという根本は変わらない。どこで、何を表現しようとも、その場の温度感を余すことなく伝えられる文章を書きたいと思った。(吉野美由紀)

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