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荻原健司(長野市長)「スキーヤー、メイヤーになる」

文・荻原健司(長野市長)

群馬の草津で生まれ育ち、大学時代を埼玉で過ごした私が長野市に住み始めたのは、1992年のことです。私はノルディック複合というジャンプとクロスカントリースキーを組み合わせる種目の選手として、オリンピック2度の金メダルをはじめ、世界選手権、ワールドカップの個人総合3連覇など活躍できましたが、それも長野の皆さんのおかげです。その恩返しがしたくて長野市長選に出馬。昨年11月から市長を務めています。

30年前、大学卒業を控えた私が長野へ移り住んだのは、6年後に開催を控えていた長野オリンピックのためでした。長野の企業に就職すれば本番に近い環境で練習を積めると思い、長野市に本社を置く企業のお世話になることにしたのです。

実際、練習環境は抜群でした。上質な雪とコースに恵まれたゲレンデで、思う存分スキーに打ち込むことができました。

それに住んでみると、都会の便利さと豊かな緑をあわせ持つ長野市の魅力に惹かれました。生活と自然が一体となった、なんて暮らしやすい街だろうか、と。

長野県は農業が盛んで、総農家数は全国1位。近所に畑を借り、家庭で食べるための野菜を栽培する方も多くいらっしゃいます。

「キュウリがたくさん採れちゃったんだけど、もらってくれない?」

近所の人がそう声をかけてくれる、人と人の繋がりがある街なのです。

迎えた長野オリンピックでは日本選手団の主将として、開会式で選手宣誓を行いました。その後も選手、指導者として長野市を拠点に活動するうち、私のスキー人生を支えてくれたこの街に、そして日本のスポーツ振興に貢献したいと思うようになりました。

選手時代、海外遠征で多くの国や地域を見るにつけ感じていたことがあります。それは、日本はまだまだ国としてスポーツへの理解や支援が足りていないということ。たとえばオーストリアはアルプスの山々に囲まれた地の利を生かし、ウインタースポーツ、さらにはウインターリゾートを盛り上げるべく、国を挙げ取り組んでいます。国立のスキー学校がいくつもあり、世界で戦えるスキーヤーを次々に輩出するなど、日本では考えられないほど施設やシステムが整備されているのです。

日本でもスポーツ振興を図るためには何をするべきか。そう考えていたとき、「参議院議員選挙に立候補しないか」と声をかけられました。引退して2年ほどが経った頃のことです。背中を押される形で立候補し参議院議員を1期6年務めましたが、このときの経験から、政治家として行政を動かせばスポーツ振興に取り組むことができると、私の中で両者が結びつきました。その後スポーツの現場へ戻りましたが、長野市へ恩返しをしたい、もっとウインタースポーツを盛り上げたいという気持ちは持ち続けていました。

市長選に立候補したのは、かつてオリンピックを開催してくれた長野市が新型コロナで苦しんでいる姿を目の当たりにし、恩返しするなら今しかないと思ったからです。

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