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2022年4月号|三人の卓子 「文藝春秋」読者の感想文

リニアは真に必要か

3月号の葛西敬之氏、森地茂氏、松井孝典氏による鼎談『リニアはなぜ必要か?』を読み、「あぁ、また同じことを繰り返すのか」と強い危惧を抱きました。「同じこと」というのは、原子力発電導入時のことです。

私が電気技術者として世に出た頃、日本は高度成長期に差し掛かり工業立国を標榜し勢いづいていました。電力需要も高まり、従来の石炭火力発電だけでは限界が見えてきた。

そこで、原子力発電の構想が急激に実用化に向け動きだしたのです。

その将来性に興味を持った私の友人も、原子力分野の仕事に携わるようになりました。技術としては未成熟な部分も多い、とその友人の話を聞きながら、私も同業技術者として関心を持ち続けました。

結果は、3・11の後の報道に見る通り。未だ解決の糸口さえも見えません。

つまり、スタート時の未成熟、未解決の問題がそのまま無視され続けてきていたのです。

技術的解決の見通しを持たず、政治的思惑に押されて見切り発車したとも言えるでしょう。

同じことがリニア案件でも垣間見られます。

技術的、環境保全的、経済的等のクリアすべき課題以前に、もっと根本的な問題が有ります。

それは、「リニアはなぜ必要なのか」という問いの答えが出ていないこと。自動車、新幹線、飛行機など既存の経済的かつ安全な移動手段の更なる改善、改良が十分に予測されているのに、なぜリニアを求めるのか。技術波及効果も限定的のように感じられます。今からでも再考すべきではないでしょうか。(吉見満雄)

オリンピックの意義

スポーツは「自分のため、楽しむため」と考えている私にとっては、北京五輪だけではなくオリンピック自体がグロテスクに思える。3月号の高口康太氏による『北京五輪のグロテスク』を読んで考えた。特に昨今、ドーピング問題をはじめとする「五輪の闇」が、スポーツをすること、見ることの楽しみを損ねている気がしてならない。

今回の北京五輪では、それが特に顕著に現れている。

本来、楽しむためのスポーツに1兆円以上もの国費を費やし、CO2削減、石炭はダメ、石油もダメと言っているこの世の中、自然破壊につながる建設ラッシュを伴うオリンピックとはどうなのだろう。おまけにオリンピック開催地のほとんどが赤字を出しているし、跡地が廃墟化している所もある。

各国の文化や習慣を無視した“グローバル化”が推奨されて久しいが、果たしてオリンピック開催中の2週間だけ一緒に競技、交流することに意味があるのでしょうか。

45年前、アメリカに来た当初、誘われて教会を訪れた時のことを思い出す。教会に入ればみな、知らない人にもフレンドリー。でも一歩外に出たら「どちらさま?」。知らん顔である。

昨年のコロナ禍における東京五輪の開催是非に対し論争が巻き起こったことも、もはや人々の記憶の彼方のようだ。オリンピックの目的や意義、必要性自体を見直す時期がきているのかもしれない。(クニコ・クレッツマー)

通勤電車と宇能作品

3月号を手にし私が真っ先に開いたのは、宇能鴻一郎氏の『芥川賞・ポルノ・死』だった。

とにかく懐かしい名前だった。東京でサラリーマン生活をしていた頃は、通勤電車の中でよくスポーツ新聞や週刊誌を読んでいた。

身動きもままならないラッシュのなかで読む宇能氏のポルノ小説。なんとも奇妙な組み合わせだが、焦燥の日々のなかで、清涼感を味わったものだった。

その宇能氏の“告白”は、氏の小説に似て、くすぐったくなるような味わいに満ちていた。東大で原始古代日本文化を研究していたと知ると、ポルノとのギャップについつい微笑んでしまった。純文学で出発しながら、いつの間にかポルノへと移行し、とにかく書きまくったという。

あの「……」や「〇〇なんです」の多い文体は氏独特のもので、私はすぐにそれに馴染んだ。純文学の作家がなぜポルノに、との思いはすぐに消えた。ポルノを卑小なものとして考えていなかったからだろう。

宇能氏自身、ポルノの執筆を楽しんでいたのではないだろうか。硬質な文章が十二分に活かされていた気がする。(野田道夫)

3月号あれこれ

私と「文藝春秋」の付き合いは古い。大学時代、マスコミ論を専攻していたので、同誌を愛読していた。

特に、芥川賞発表号は必ず買っていた。グラビアページの『同級生交歓』を見て、有名人の思わぬ同級生を知り、驚く。

続いて芥川賞受賞作を読む。文学作品は時代を色濃く映す。

今回の受賞作「ブラックボックス」は格差社会の底辺を生きる若者を描いた秀作。

村田沙耶香氏の「コンビニ人間」と同様、書かれるべくして書かれた作品だと思う。

同じ号で興味を引かれたのは、『有働由美子のマイフェアパーソン』のゲスト、岸田総理夫人の岸田裕子氏。子育ては「とにかく厳しく」、絶対に贅沢はしない、させないという方針。

また、中学1年生から大学1年生まで寮生活をしていたおかげで、自立心が身についたとか。

私も大学生活を寮で過ごした。先輩とのタテの人間関係から学んだ礼節。相部屋だったから、気遣いも覚えた。食費を削って買った本と身についた倹約の精神。寮生活は、その後の人生に役立つ人間の基本を学んだ場だった。

裕子さんの芯の強さは、男兄弟に囲まれて育ったこと、そして寮生活から得たものだろう。今後のファーストレディとしてのご活躍を心から祈り、楽しみにしたいと思う。(上松佳祐)

土偶の奥深さ

『土偶はゆるキャラ!?』。興味をそそるタイトルに目を奪われ、3月号に掲載されたイラストレーターのみうらじゅんさんと人類学者の竹倉史人さんの対談を一気に読んだ。

「土偶は縄文人が食べていた植物や貝をかたどったフィギュア」で、世界遺産・亀ヶ岡遺跡出土の有名な遮光器土偶は、なんと里芋をかたどっているというではないか。土偶の正体を明らかにした竹倉氏の本は、「みうらじゅん賞」などを受賞して話題になっている。

里芋を思い浮かべるまでのエピソードが面白い。仮説を補強するため、里芋の栽培をしたというから筋金入りだ。

遮光器土偶が出土した青森県の木造町(現つがる市)では、土偶を「しゃこちゃん」と呼び、ゆるキャラ扱いの人気者だという。

縄文人の心の内を覗こうと、私もしゃこちゃんの写真を無心に眺める。手足が里芋の形というが、残念ながら私には眼鏡をかけた宇宙人にしか見えない。心が曇っているのだろうか。

対談で語られた、竹倉さんが人類学者になるまでの経歴が興味深い。美術系大学を除籍後、東大に入り宗教学を学んだ。卒業後、フリーター生活を続け、30歳を超えてから東工大の大学院に入ったという異色のキャリアだ。回り道をした経験が、考古学者の思いもつかない柔らかな発想にたどり着かせたというべきか。

縄文時代の「ヤベえ発見」がつまった竹倉氏の『土偶を読む』をさっそく読んでみようと思う。(早川邦夫)

緑色のインク

『万年筆の誇り』は、さすが文春と思わせるグラビアだ。

タイトルとともに紹介されているのは、万年筆界最高峰のモンブランだ。モンブランはケーキ、としか連想できない自分が情けない。

歴史の教科書にも出てくる、サンフランシスコ講和条約に自らの万年筆で署名をする吉田茂の写真に、ゴッホの名画にオマージュをささげたイタリアのヴィスコンティ。イタリアは工芸品も優れているが、万年筆でも遺憾なく発揮されている。

ダグラス・マッカーサーもパーカーを愛用していたとは、このグラビアを読むまで知らなかった。

私は悪筆なので、これまで万年筆には興味も縁もなかった。しかし、万年筆の魅力をインターネットで調べ、「少しは字を丁寧に書くようになるかも」と淡い期待を抱き、万年筆専門店でペリカンの万年筆を購入した。

職人気質の優しい店主が万年筆の魅力を語り、結婚の際に購入したというモンブランの万年筆を見せていただいた。充実した買い物をする楽しみを味わえた。

さて、私の字がきれいになったかと言うと、全くもって変わらず。ビギナーのために店主がインクをサービスしてくれ、選んだ色は、緑色。きれいな色で気に入ったのだが、お礼状など改まった手紙には使えないな、と使い道を思案している。

いつか自信をもって、私の個性です、と言えるよう、緑色のインクも万年筆も自分に馴染むまで日々励みたい。(吉野美由紀)

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