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【特別対談】柴咲コウ×福岡伸一|コロナ禍の夜明け、「ウイルスに勝つ」という幻想

コロナ禍で感じた生命の「美しさ」と自然への「畏怖」。/柴咲コウ(女優)×福岡伸一(生物学者)

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▶ひとつ言えるのは、コロナ禍は多くの人にとって“分岐点”になったということ
▶自然の中の孤独とは、ソリチュード的な孤独で、ロンリネスじゃない。逆に都会に居るほうがロンリネスを感じる
▶少しでも余剰分が得られたら、それを全部独占しようとするのが人間の考え方。この考えを捨てて利他的に行動することが、これからの環境問題を考える上で重要になってくる

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柴咲コウさん(左)と福岡伸一さん(右)

持続可能な社会をつくる会社を設立

柴咲 私は幼い頃から人と自然との関わり方について興味があり、福岡さんの生物学のお話にとても惹きつけられていました。いつか自然や生命をテーマにお話ししてみたいと思っていたんです。

福岡 ありがとうございます。柴咲さんは環境問題に関して、いろいろな活動をされていますね。

柴咲 2016年に、これからの持続可能な社会をつくることを目的として「レトロワグラース」という会社を設立しました。2018年には環境省から「環境特別広報大使」に任命していただきましたが、自分に何が出来るのか、まだまだ試行錯誤している最中です。

ところで、新型コロナウイルスの世界規模での感染拡大が起こって、およそ1年が経ちます。この間、どうお過ごしでしたか?

福岡 私は昨年の今頃はちょうど研究拠点があるニューヨークに滞在中で、3月からのロックダウンを経験しました。ただ、もともと引きこもり系の人間なので苦ではありませんでしたね。膨大な時間を利用して、研究と本の執筆に取り組み、2つの大きな著作を完成させることが出来ました。

柴咲 わあ、楽しみです! コロナ禍では自粛を余儀なくされ、「嫌だ」「辛い」と思う人もいれば、苦にはならない人もいる。個々人の反応の差が顕著に出ましたよね。

ひとつ言えるのは、コロナ禍は多くの人にとって“分岐点”になったということではないでしょうか。人って追い詰められた時に、「本当は何がしたいんだろう」と考えはじめると思うんです。私自身もコロナがきっかけとなって、自分が本当にやりたかったことを見つめなおし、様々な新しいことに取り組みはじめました。もちろん苦しい思いをされている方は数多くおられますが、私自身は立ち止まって考える時間がとれて、「とても良い機会だな」と思う面もありました。今日はその取り組みについてもお話ししたいです。

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ガラパゴスで「ピュシス」に戻る

福岡 その前に私から、柴咲さんにとっておきの話を用意してきたんですが、お話ししてもいいですか?

柴咲 えっ、何ですか?

福岡 実は昨年2月、コロナが世界を襲うよりも少し前に、エクアドル・ガラパゴス諸島の探検に行ってきたんです。ガラパゴス諸島は関東地方くらいの広さの場所に、123の島々が点在しています。今から200年ほど前、英国の科学者チャールズ・ダーウィンが「進化論」の着想を得た場所ですが、彼と同じルートを辿ることが私の長年の夢で。ようやくそれが実現したんです。しかし実際に探検に出てみると、自分がいかに都市化された人間かということを痛感させられました。

柴咲 都市化された人間?

福岡 人間という生物は自然の中で生きる生命体であると同時に、文明化された社会の中で生きる社会的な生き物でもあります。私は前者を「ピュシス」、後者を「ロゴス」と呼んでいます。分かりやすく言うなら、ピュシスは本来の自然そのもの、ロゴスは人間の脳が作り出した言葉や文明、論理や経済原理のことです。

ガラパゴス諸島での日々は、ピュシスのど真ん中に放り込まれたようなものでした。見渡す限りの大海原が広がっていて、夜には満天の星が輝く。それは素晴らしい環境だったのですが、一方で大変な思いもしました。探検には小型のボートを使用していましたが、水洗トイレも温水シャワーもついていない。もちろんネットは繋がらないし、携帯の電波も届きません。大自然の中での人間のひ弱さを思い知らされました。実際に行ってみるまで、自分がこんなに困るとは想像つかなかったです。

柴咲 (机の上に並べている福岡氏の著作から『最後の講義 完全版』を手に取って)この本にも書かれていましたけど、福岡さんは幼い頃から昆虫少年で、自然に非常に親しまれていたということでしたよね。そういう方でもピュシスから遠いところにいたということでしょうか。

福岡 確かに幼少期はピュシスの中に生きていましたが、そこから勉強して知識を仕入れて生物学者になるという過程は、まさに人間がロゴス化されていくプロセスを辿っていますからね。ただ、ガラパゴスでの生活も3日くらい経つと、だんだん慣れてきて「自分も自然の一部なんだ」ということに気がつき、快適になっていったんです。携帯も見なくて平気になりました。このように、人間というのはピュシスとロゴスの対立の中にあって、二つの間を行ったり来たりする存在なんですね。

後日談ですが、探検が終わりニューヨークに移った直後から、北米や南米での感染拡大が始まり、続々と都市が封鎖されていって……。あと2日予定が遅れていたら、そのままガラパゴスに閉じ込められて、漁民になっていたところでした(笑)。

自然の中では怖くない

柴咲 (笑)。私も、この1年でいろいろな変化や気づきがありました。昨年、本誌(2020年10月号『「自然」と「無駄」のなかで生きる』)で養老孟司さんと対談させていただいた際、北海道へ移住したいという話をしていたんです。リモートでいろいろなことが可能になり、都市集中型でない「分散型社会」の議論も出てくるなかで、自分もなにか実践してみたいなと。あの時は家を建てている途中だったんですけど、やっと完成しまして。東京で仕事がない時は、北海道で過ごしたりしています。

福岡 柴咲さんは、なぜ北海道を選んだんですか?

柴咲 両親の故郷なんです。私自身の生まれは東京なんですけど、幼い頃から都会にフィットしない感覚を持っていました。周囲がコンクリートだらけで、生きた心地がしないというか……。自分が消費活動をすること、それによって無駄が出ることへの罪悪感もすごく大きかったです。その違和感を持ちはじめた頃、親戚のように仲良くしていた一家が静岡の山のほうに引越しまして。夏休みには長期で遊びに行かせてもらうようになり、そこで自然の魅力にはまりました。その時から「大人になったら自然の中に住みたい」と思っていたのですが、その夢がやっと叶いましたね。

福岡 なるほど。それは私のガラパゴス諸島での経験と同じで、ピュシスへの回帰ですね。

柴咲 はい。実際に北海道の大自然の中に一人で暮らしてみると、熊に襲われたり、自然災害に巻き込まれたりする可能性はあるわけですが、不思議と「怖くないな」と思ったんです。自然の脅威より、むしろ人類のほうが怖いのかもしれない。

福岡 そう、人は怖いんです。

柴咲 自然の中の孤独とは、ソリチュード的な孤独で、ロンリネスじゃない。逆に都会に居るほうがロンリネスを感じるという体験ですね。印象的だったのは昨年秋頃、家を建てる土地を訪れたら、腐葉土がふかふかで温かかったんです。微生物の力、見えない世界への畏敬の念を抱きました。そういった世界に近づけているのが嬉しい限りです。

建築は地元の設計社さんに依頼して、なるべく合成的なものを使わず、木材が呼吸出来るような家を作っていただきました。薪ストーブもあるので、そのうち薪拾いにも出かけたいと思っています。

福岡 いいですね。自分の理想の生活を、自分で作ったわけだ。

「マタギ」になりたい

柴咲 ただ、理想と現実はやっぱり違いますね。最初は食べるための野菜も育てていこうと考えていたんですけど、北海道の冬は長いので素人にはとても難しい。今年の春からは近所の方のレクチャーも受けつつ、まずは土づくりから再挑戦しようと思っています。

福岡 衣食住の基本的なところを自分でやろうとすると、大変なことが多いですからね。

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