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「一城一食」 備中松山城を旅する。【全文公開】

全国各地に存在する城。その城下町には土地を彩る「食」がある。城と食をめぐる旅に出かけよう――/萩原さちこ(文)& 岡泰行・志水隆(写真)

今回の旅先…備中松山城

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雲海展望台から。晩秋〜春の早朝、気象条件により雲海が見られる。特に11月は神秘的。©岡泰行

 晩秋になると、訪れたくなる城がある。岡山県高梁市の備中松山城だ。早朝、江戸時代から残る天守が雲海に浮かぶ、絶景に出合える。陽光を浴びた雲海と紅葉のグラデーションが混ざり合い、なんとも幻想的だ。夜明け前から、白い息を吐きつつ待機した甲斐がある。

 備中松山城は、天守が現存する全国で唯一の山城だ。城のある標高約480メートルの臥牛山は4つの峰から構成され、戦国時代には全山が要塞化されていた。天正2年(1574)には、城主の三村元親が毛利・宇喜多氏と敵対。翌年には毛利氏に攻められ、落城もしている(備中兵乱)。

 落城後、毛利氏の支配を経て、慶長5年(1600)の関ヶ原合戦後に小堀正次・政一(遠州)親子が備中国奉行として入国して城の改修や城下町の整備を始めた。寛永19年(1642)に城主となった水谷(みずのや)勝隆が、新田開発や鉱山業の振興を図り藩政の基礎を確立。城を大改修したのは2代・水谷勝宗で、城内に残る石垣や天守は勝宗により天和3年(1683)頃に築かれたとみられる。

 私の中で全国1、2位を争うお気に入りの石垣が、大手門付近だ。とくに、剥き出しの岩盤と、その上に積まれた石垣との融合がたまらない。その迫力に圧倒され、訪れる人の多くが足を止める。

 備中松山城は高所にあるため、明治の廃城令後は放置されてひっそりと生き延びた。太平洋戦争の戦火も逃れて奇跡的に残った天守や二重櫓を見上げると、胸に込み上げるものがある。

 山上の城は不便だったようで、山麓に城主の居館と政庁を兼ねた御根小屋がつくられた。現在の高梁高校がその跡地で、敷地を囲む石垣がよく残る。城下町は南北に長く、高梁川と並行するように、東側に武家屋敷、西側に町家が南方向に並んでいた。町家が並ぶ松山街道沿いには、今も往時の賑わいが感じられる。

 藩の財政を支えたのが、岡山三大河川の1つである高梁川を使った水運だ。水谷勝隆が玉島(倉敷市玉島地区)を開発して拠点とし、阿哲(新見市阿哲地区)や成羽(高梁市成羽町)の鉄、吹屋(同)の銅などを高瀬舟で流通させた。城に見事な石垣や天守を築けたのは、こうして得た経済力のおかげなのだろう。

 高梁川の恵みを丸ごといただけるのが「魚富」の「天然あゆフルコース」だ。高梁川上流の阿哲峡という石灰岩の岩壁についた苔を食べた天然の鮎は、驚くほど身が大きい。ふっくらとして、どの料理からもしっかりとした鮎の味が感じられる。

 高梁川の支流、成羽川の上流部にも壮大な石灰岩台地が広がり、伏流水はミネラルをバランスよく含む。気候風土に恵まれた岡山は高品質な酒米の産地でもあり、酒造りに最適だ。

 江戸中期以降に増えた備中杜氏の技を今に伝える「白菊酒造」を訪れると、造酒錦(みきにしき)という聞きなれない酒米があった。6代目の渡邊秀造さんに尋ねてみると、かつて山田錦の突然変異種の中から選ばれ栽培された品種で、10年かけて復活させたという。

「大典白菊 純米酒 造酒錦」は、淡白な白身魚や鶏肉のほか、濃厚なチーズにも合いそう。「少し熟成させてから燗酒にするのもいいですよ」と嬉しいアドバイスも。寒くなるのが楽しみだ。

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大手門付近の石垣。大手門は城の表門にふさわしく、高い石垣に囲まれ厳重に防御されている。臥牛山の岩盤は、強度の高い花崗岩。

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武家屋敷が並んだ石火矢町。約250メートルの通りに、武家屋敷や土塀が残る。奥に見える山に備中松山城、山麓に御根小屋跡。

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天守は二重二階で、高さは約11メートル。小ぶりだが均整が取れている。最近は、城に住み着いた猫城主が人気。

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天然あゆフルコース。塩焼きや味噌焼き、珍しい鮎のフライやあゆソーメンなど、鮎づくし。○魚富 高梁市鍜冶町106

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柚餅子も名物。柚子の香りが高く、さっぱり。○天任堂 高梁市東町1877

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中太鼓櫓跡から見渡す城下町。西側を流れる高梁川が、藩に繁栄をもたらした。

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白菊米も、復活させた酒米。○白菊酒造 高梁市成羽町下日名163-1

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二重櫓も江戸時代から残る建物。天守と同時期、水谷勝宗の建造と考えられる。

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奥が、現存する二重二階の木造天守。手前右が復元された五の平櫓、左が六の平櫓。©岡泰行



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