【連載】EXILEになれなくて #23|小林直己
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【連載】EXILEになれなくて #23|小林直己

第四幕 小林直己

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四場 作品を発表する意味 ~「箱の中」


「何を選び」「何のために」「どう生きていくか」

 冒頭の言葉は、この連載の四幕一場「ステイホームが僕にもたらしたもの」でも書いた言葉だ。映画「箱の中」という作品に込められた思いが綴られた文章から、引用した。

 2020年に配信された映画「箱の中」は、僕が初主演した長編映画である。新型ウイルスの影響でこれまでの当たり前が当たり前じゃなくなった世界において、大切なメッセージを届けてくれる作品だ。配信方法においても、従来の方法に限定せず新たな映画視聴体験を味わうことのできる刺激的なプロジェクトである。

 物語のあらすじは以下の通りだ。

 都内のIT企業に勤める35歳、ごく普通の暮らしをしていた瀬戸譲二は、ある日、目を覚ますと、コンクリート状の箱の中にいた。いったい誰が、何のために譲二をここに入れたのか。極限状況の中で、譲二は何を思うのか……。

 主人公・瀬戸譲二がコンクリート状の箱の中に閉じ込められた状況から始まるミステリー・サスペンスである今作。現在、僕、小林直己の公式 Instagramにて、1話1分で構成されたInstagram版が全51話、無料で限定配信されている。ほかにも、バーティカルシアターアプリ「smash.」にて、スマホ版となる縦型映画「箱の中 The vertical FOCUS」が視聴できる。一つのストーリーを違った角度から楽しめるこの作品を、ぜひ多くの人に観てもらいたい。

 「箱の中」が生まれたのは、やはりステイホーム期間だった。

 2020年、未だ続く新型ウイルスの脅威が世界を襲った年。ある日突然、日常が非日常に閉じ込められた。僕は「家の中」という「箱の中」に閉じ込められ、世界から隔絶されたような気がした。この状況がいつ終わるかは誰も読めない。収束するかどうかもわからない。安全のために必要だとわかっていても、突然、家から一歩も出ない生活が続き、精神的に参ってしまった人も多いだろう。僕もその1人だった。

 今作の企画は、誰もが経験したそんな思いから始まっていた。脚本の素案は2020年前半から動き出し、刻々と変化する世の中の状況を取り入れながら調整を繰り返していった。そんな中、同年4月には緊急事態宣言が発令され、自粛生活は続いた。

「ステイホーム」という言葉が世の中に浸透した頃、緊張しきった心を癒してくれるものが必要とされていた。その期間が長引くにつれ、気分を変えてくれる映画や音楽といったエンタテインメントの力が再認識されたり、SNSが活発になった。現実世界での接触機会が制限されている分、それぞれの状況を共有したり共感することが増え、「#うちで過ごそう」といったハッシュタグが溢れるようになり、段々と盛り上がりを迎えた。YouTubeなどにも新しく多くの人が参入した。また、オンラインショッピングなどのサービス特性が感染対策と合致し、利用者が激増していった。この期間に、ネットの便利さが多くの人に広がっていったのだ。

 しかし、これまでもたびたび取り上げられていたSNSに含まれる危険性は、なくなったわけではなかった。SNSで知り合った見知らぬ者同士が結託し犯罪が行われたり、犯人だとSNSで拡散された写真が人違いだったりと、SNSの不透明性が持つ悪い側面が取り沙汰されもした。

「箱の中」には、そのような新型ウイルスで直面した日常の閉塞感やSNSの問題提起などがテーマとして込められていた。作品への想いを綴った文章には次のような一節がある。

なんの前触れもなく訪れた、人と自由に会えない時代。情報が交錯するネット社会や、家という”箱の中”に閉じ込められたような怖さや不安を感じたり、反対に、人との繋がりの大切さに気づいた人も多いと思います。
 
映画「箱の中」は、日常の世界から非日常の世界に閉じ込められた時、”何を選び 何のために どう生きていくか”を譲二と共に考えて欲しいという想いが込められた作品です。

 映画は、新型ウイルスの影響下で混乱が続く中の制作だったが、今でしか入れ込むことのできない空気感のようなものが、しっかりと込められている。

 僕自身も制作を通じて新たな発見があった。初めての父親役に挑戦し、役柄を通じて人生に対する考え方に変化が生まれたのだ。

 極限状況に陥る物語の中で、家族を大切にしたり、大切な人を守るということはどういうことなのかを改めて考えた。一番近い他人である配偶者。血を分けた子ども。それらはどんな存在であるのか。どんなことよりも優先する存在とは何なのかを何度も自分に問いかけた。そうして、自分に置き換えて考えていく中、本当の家族との連絡が増えていったりもした。シンプルだけど、見失いやすいもの。周りの人を大切にするための行動など、この状況だからこそ、漠然とした概念ではなく具体的な方法で考える自分がいた。

 この連載でも再三再四、触れているが、特殊だと感じている現在の環境は、実は以前からあったさまざまな制約が、新型ウイルスがもたらした状況によって浮き彫りにされたことであると感じている。僕らの世界では、生きている限り時間は有限であり、二度と同じ時間は戻らない。例えばそんなことを、僕はずっと見ないふりをしていたのだが、この新型ウイルスの出現により、向き合わざるを得なくなった。

 劇中にて、僕が演じた主人公・譲二がこんなことを言う。

わかったんだ、俺が普段から、どれほど周りの人を大切にしてこなかったかを、どれほどいい加減だったかを……。人生をやり直したいんだ、もう一度。頼むよ……、いや、お願いです。

 物語の重要なシーンでこの独白をする譲二だが(ぜひ本編を観てほしい)、このセリフは、この新型ウイルスの影響下以前と以後では、自分の捉え方が全く異なるものだった。
 
「人を大切にすることは、一体どういうことなのだろうか」

 このセリフを読んだときに、最初に浮かんだ疑問だった。なぜなら、新型ウイルスの影響で、自粛生活を余儀なくされ、アーティストとしての活動の場所を一切奪われた後、自らを振り返るうちに見えてきた感情とリンクしていたからである。
 
「何もできることがない」

 この時期に生まれた感情は、言葉には表せないものだった。周りを見渡しても、そこには草木も、寄りかかれそうな手すりも、何もない。景色で例えるならば、そういうことだろうか。そんな感覚に陥ったとき、初めて僕は過去の行いを振り返り、後悔をした。「どれほど周りの人を、それぞれの機会を、取り返しのつかない時間を大切にしてこなかったのか。どれほど自分はいい加減だったのか」。甘えと弱さとひねくれの全てがないまぜになった結果が、今の自分だったと気づいた。

 その感覚は、今回演じた譲二の状況ともリンクしていた。だからこそ、このセリフが自分にとってきつかったのだ。そのことに気づいた瞬間、この譲二というキャラクターが自分にとって特別な存在になった。

 今作の撮影は、自分にとって大きな山場であり、撮り終えた瞬間、これまでに感じたことのない達成感を感じ、同時に新しい自分になったような、虚無感と少しの不安と希望を感じた。自分にとっての大きな転機になった。

 譲二を演じることで、2020年に向き合ったものを自ら振り返り、感じた自分自身への思いを昇華させていったような気がする。僕が直面した、新型ウイルスによって浮き彫りにされたこれまでの失敗や後悔と、行動の自粛という状況がもたらした発見。それは、劇中で箱の中に閉じ込められ食料も尽きた極限状態にある譲二が感じた、家族への想いとリンクしていた。

 この作品は、まさにコロナ禍を生きる現状の僕たちを描いた話であり、僕らが感じたこと、特に心の奥底にある自身では明確な答えを導き出せていないものを代弁をするものだと思っている。そう気づいた時に、脚本の凄さや映画だからこその方法論、そして、エンタテインメントの意味というものを肌で感じた。

「箱の中」の制作では、脚本家とのディスカッションなど、これまで以上にスタッフとコミュニケーションを取った。それらを通じ、作品作りに対してもこれまで以上の興味を持つことができた。その過程で話したいくつかのことが、脚本にも反映され、シーン1つ1つへの思い入れは強くなった。

 これが、前章でも述べた「自分の人生をエンタテインメントに融合させる」ということなのかもしれない。人は何かを伝える力を持って生きている。エンタテインメントは、特にその力を発揮すべき分野なのだろう。僕自身、エンタテインメントの世界に深く関わり、さまざまな瞬間を見てきたからこそ思う。

 いつか制作段階からプロデュースに携わり、世の中をポジティブにできるような作品を作ってみたいと思っている。これまで生きてきた中での発見や、人生そのものの意味を、作品に込め後世に残していくことや、今この瞬間に社会に必要なものを、世の中に届けることをしていきたい。これこそがエンタテインメントに携わるものとしての醍醐味であり、世の中に作品を発表する意味なのだろう。

 最近よく考える。何においても僕が譲れないことはなんだろうか。

 物事をシンプルに考える。今と未来の自分にフォーカスする。

 それを基準に、全ての物事を決めていこう。

★#24に続く

■小林直己
千葉県出身。幼少の頃より音楽に触れ、17歳からダンスをはじめる。
現在では、EXILE、三代目 J SOUL BROTHERSの2つのグループを兼任しながら、表現の幅を広げ、Netflixオリジナル映画『アースクエイクバード』に出演するなど、役者としても活動している。

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