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船橋洋一の新世界地政学 Quad Vadis?

今、世界では何が起きているのか? ジャーナリストの船橋洋一さんが最新の国際情勢を読み解きます。

バイデン米大統領の呼びかけで日米豪印4か国の首脳会議(Quad)が先月、オンラインで開催された。トランプ政権時代の2018年以降2回、外相会議が開かれたが、首脳会議は初めてである。

もともとは第1次安倍晋三政権が推し進めようとした構想である。しかし、インドは中国を刺激することを恐れ消極的だった。オーストラリアも対中経済関係への悪影響を懸念した。肝心の米国も半身の対応で、結局、不発に終わったいきさつがある。

今回、情勢はガラリと変わっている。

バイデン 2021論点  (1)

バイデン大統領

最も変わったのは米国である。バイデン政権はトランプ政権が担いだこの構想を継承し、しかもそれを一気に首脳会議に格上げした。従って、Quadに関しては、超党派的支持を得やすい。共同声明では、Quadサミットを今年中に対面で開催すると明記した。

オーストラリアのマルコム・ターンブル前首相は今回のQuad開催の「最大の受益者はオーストラリアだ」ともろ手を上げて、歓迎している。コロナ危機の中で、モリソン首相が中国のコロナ対応の国際的検証の必要性を口にしたというので中国は同国に対する経済制裁を繰り出している。Quadはこうした中国の経済の武器化に共同で対抗する構えである。

インドのモディ首相は首脳会議後、「Quadはようやく一人前になった」と述べるとともに「地域の安定の重要な柱となるだろう」との期待を表明した。

中国は虚を衝かれた形だ。王毅中国外相は2018年、Quadはいずれ「水泡のように消えてなくなるであろう」との見方を披露していた。だが去年コロナ危機が深まり、トランプ政権が対中攻撃を強めるにつれ、中国はQuadを「アジア版NATO」と見立てて非難し始めた。Quad首脳会議に関して、中国メディアはバイデン政権の外交安保担当者たちを「ジョージ・ケナンをイエス・キリストのように拝め、彼の書いたX論文を聖書のようにありがたがっている」(環球時報)と批判している。X論文(「ソビエトの行動の源泉」)は国務省政策企画局長をしていたケナンが1947年に著した対ソ封じ込め戦略論のことである。

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日本にとってもQuadは、中国との中長期的な競争的共存戦略を進める上で大きな価値を持つ。

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