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2022年11月号|三人の卓子 「文藝春秋」読者の感想文

何がまずかったのか

統一教会と政治家の関係が明らかになるに従い、「日本は貢ぐ国」と蔑まれているにも関わらず利用されてきた政治家が多いことに驚くとともに、情けない気持ちになる。

10月号では緊急特集として「日本経済SOS」が組まれていた。世界的投資家ジム・ロジャーズ氏の『最後のチャンスを逃すな』を読み、「私の愛する日本はどうなってしまうのか。このままでは日本経済は崩壊」という冒頭の言葉に再度失望を余儀なくされた。

この前までGDPは米国に次ぐ2位で、国際不安があれば「有事の円」として買われていたのに、今はロジャーズ氏のような外国人投資家に心配される有様である。何がまずかったのだろう。「アベノミクス」は仰々しいネーミングだが、日銀を利用して通貨をだぶつかせただけに留まり、今となっては円安物価高の弊害に見舞われている。

経済の舵取りをする政治家が票集めだけで矜持もないことが露見したが、そんな政治家を選んだ我々国民の責任も否定できない。政治の老害が経済政策などでも影響しているならば、特集で指摘されている提言の実行は難しい。

ロジャーズ氏の言う「このままでは若者の残された道は日本を去ること」にならないようにしなければならないと強く感じた。(佐藤真由子)

鴨長明の感覚

10月号の養老孟司さんと平野啓一郎さんの対談『「方丈記」一人滅びゆくこと』。タイトルに魅了され、いの一番に拝読しました。私も養老さんと同じく国民学校2年生で終戦を迎えましたので、養老さんが言う「組織や国の言うことを絶対あてにしないんです」という心性は良く理解できます。

しかし、「組織より自分の感覚を頼りにする鴨長明の生き方はしっくり来るんです」という考えにまでは至りませんでした。

鴨長明といえば、学校で習った「方丈記」の冒頭〈行く川の流れは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし〉が今でも蘇りますが、いま、身の回りを見れば、コロナはもとより、戦争、核兵器、天候危機、地震、富士山噴火、出生数の激減等々数えきれない禍が脳裏に浮かび、その不安の中で生きています。

しかし、多くの情報がマスメディアや政府などに依存していて、自分の感覚は鈍麻し、鴨長明のように身の回りの危惧を深く認識することはできないでいるのでしょう。しかも、自分の問題として認識すると不安が募るので、私たち現代人は地球で起きている出来事を深く認識することを無意識に回避し、表層の認識で留めているのではないでしょうか。

そのような現代社会において、養老さんが指摘するように「自分に真に必要なものは何か、どうすればそれを保てるかと考えておくこと」の大切さを、改めて考えさせられました。(柿沼昌芳)

山岡編集長の手腕

10月号、山岡朝子さんの『「ハルメク」成功の方程式』を読み、「ハルメク」という雑誌があることを初めて知った私。しかし「いきいき」はどこかで見た覚えがあります。新聞の広告だったのか、それともどこかのお宅だったのか。「いきいき」という名前も奇抜でしたが、「ハルメク」という名前もいいなあと感じています。「春めく」という言葉ですよね、きっと。

編集長の山岡さんは、ヘッドハンティングで採用されただけあり、手腕が違います。部数を上げるだけでなく、次から次へと改革に着手しては、成果を出しています。

赤字の雑誌の編集長を委任されるなど、考えるだけで胃が痛くなりそうです。失敗したら確実にクビだし、たとえ成功したとしても「まぐれだ」「いまだけだろう」と悪口を言われてしまう。メンタル的にも強くなくてはやっていけない世界です。

山岡さんはそれを見事に乗り越えて、「ハルメク」を一流雑誌にしました。これは、彼女だからできることであり、他者にはマネできないでしょう。

50代以上の女性がターゲットだと言いますが、この世代の女性は目が肥えていて、本当に価値のあるものにしかお金を出さないはずです。その意味で、山岡さんには本当に力があることを感じます。

MBAホルダーにも関わらず、それを感じさせない働きぶりが他の社員から好評なのでしょう。記事を読んでいると、会社全体が山岡さんを中心に回っている気がしました。その裏には、絶え間ない努力があるのだと思います。

「ハルメク」は、50代女性をターゲットにした雑誌ですが、50代男性の雑誌も山岡さんに作ってもらえないでしょうか。そのときは私も一読者となって応援したいと思います。(細江隆一)

ガリレオの秘密

10月号の東野圭吾さんと福山雅治さんの対談『「ガリレオ」の秘密』は実に面白く、話題の映画「沈黙のパレード」を観るのが楽しみになった。

原作を先に読むか映画を先に観るか――。やはりこれは“東野圭吾の世界”に浸ってから、“福山雅治の世界”をじっくりと味わう事にした。

原作者の東野さんと、主人公・湯川学を演じる福山さんはプライベートでも仲がいい。東野さんは、福山さんをイメージして小説を書いているという。福山さん本人も原作者にこれほどまで言われたら役者冥利につきるだろう。「湯川学をこの地球上で演じられるのは僕だけだ」と言う。

「ガリレオ」シリーズの大ファンである私は、原作を読んだ後で「これはどんな風に映画になるのだろう」とワクワクするのだが、いつも期待を裏切らない仕上がりになっている。皆で丁寧に時間をかけて愛情を持って作られた作品は観る側に直球の如く届く。だから感動するのだろう。

30代の頃から福山さんを見ているが、年齢を重ねて変わっていく彼と共に湯川学も変わっていくのも素晴らしい。

東野さんと、才能豊かな福山さんが今後どんな天才物理学者・湯川学を作りあげていくのか目が離せない。(永野意見子)

バラバラの拍手

10月号、清武英利氏の連載『記者は天国に行けない』を興味深く読んだ。「畳の上で死ねなかった人々」、つまり非業の死を遂げた人々の取材を続ける記者の話だ。

ところで、安倍元総理も畳の上で死ねなかった人である。そのうえ、葬儀について国民の意見が分かれている。遺族にしてみれば非業の死を遂げたショックからも立ち直れないのに、こうした騒動にはうんざりしているだろう。

国葬を明確な法的根拠もなしに「できる」と解釈し、野党への根回しもなく決めてしまったことが、そもそもの原因である。岸田氏はこんなことになるとは思っていなかっただろう。

安倍氏が、自民党にとって有為な人材であったことは間違いないが、国民全員がそう思うかは別である。自民党葬なら誰も文句は言わない。なんでも内閣で決められると思ったことが、岸田氏の命取りになりかねない状況だ。

安倍氏の時代にも、重要な法案を国会論議を尽くさずに、強引に通してきたことがあった。コロナの問題でも、学校をすぐ休校にしたのは安倍氏だ。休校にすることなどなかったのに、保護者や教員、生徒の事情などお構いなしだった。岸田氏も真似をして「国葬だ」といったが、従ってもらえなかった。その違いは何か分からないが、求心力がないのは事実である。

「畳の上で死ねなかった人」をみんなで盛大に送ってあげたかったのだろうが、バラバラの拍手だけが残ってしまった。(三上洋子)

使えなかった“ねえ弁”

10月号の『古風堂々』で、藤原正彦氏は「薩摩弁と津軽弁は日本の宝物だ」と書いておられるが、私もまったく同感である。私は青森県南で生まれ育った南部衆。毎日南部弁を使うのだが、津軽弁はよく理解できる。敬語をあまり用いない、ざっくばらんな感じの津軽弁を、私は好ましいと思う。

テレビ番組などでインタビューをされれば、全国どの地方の人たちも共通語に近い言葉で応じる。が、津軽衆は訛りなど気にせず、堂々と津軽弁を使う。同じ青森県人でも引っ込み思案な私ら南部衆とは大分気質が違う。

藤原氏にはいつも教えられることが多いのだが、今号でもいくつか初めて知らされることがあった。薩摩出身の大山巌と会津出身の山川捨松はお互いの方言が通じずフランス語で見合いをしたとか、英国人同士でも言葉の差異で軽蔑されたりすることがある、などなど。

藤原氏は子供の頃、東京で諏訪地方の強い訛りの方言を話していたそうだが、これには相当な勇気が必要だったのではないだろうか。

私は、18歳で大学入学のため上京した当初、東京の人たちと話すのが怖かった。南部弁特有の「あのねえ」「このねえ」という“ねえ弁”が使えなかった。使う勇気がなかったのだ。

藤原氏が60年以上昔のことを思い出させてくれた。懐かしかった。(木村繁樹)

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