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「若者は自民支持で保守化している」説は本当か|三浦瑠麗

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※本連載は第39回です。最初から読む方はこちら。  

 前回は、立憲民主党と国民民主党の合流協議のニュースから派生して、野党が仮に政権奪取を試みるのならばどのような戦略をとるべきであるのかについて書きました。日本の選挙は今後もしばらく、中高年以上の世代を中心とする既知の論点によって左右に分断されつづけるでしょう。政治的などんでん返しが可能であるのは、社会の変化に対して相反する気持ちを抱える有権者の「気分」に沿って風を巻き起こすことに成功した場合のみであるということです。

 そこで本日は、視点をもう少し長期的展望に移して、若者世代がどのような価値観を持ち、どのように政治を見ているのかを考えてみましょう。よく、若者は自民党の支持が高く、全体として保守化していると言われます。それは本当でしょうか。

 「日本人価値観調査2019」によれば、18-19歳の若者は、外交安全保障と憲法に関わる価値観の正規分布を描くと、もっとも頂点が高く左右の広がりが少ない、すなわちもっとも中道的な価値観に固まっている年代であることが分かります(Fig.1)。ちなみに、日本人価値観調査の方式では、保守的な価値観を表した設問に対し、“どちらともいえない/わからない”を回答選択肢として選ぶと価値観はゼロとして評価されますから、多くの問題で“どちらともいえない”と答えると、中道寄りのスコアが出やすくなります。

 若者は全体的傾向として、中庸な選択肢を選びがちです。20代や30代の若年層は18-19歳に準ずる形で次いで山が高く、中庸な価値観の人が多い印象です。しかし、山の頂点、つまりもっとも多かった価値観は18-19歳の方がわずかに保守・リアリズムよりであることが分かります。

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Fig.1 外交安保・憲法に関する価値観の年代別正規分布

 しかし、経済政策に関する価値観を見てみると(Fig.2)、18-19歳はこれも頂点が高いのですが、ほかの多くの世代よりもリベラルよりで、社会政策においても同様です(Fig.3)。なぜ、18-19歳の回答者は経済・社会問題においてはリベラルよりなのに、外交安保・憲法問題においてはそうでもないのでしょうか。

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Fig. 2 経済政策に関する価値観の年代別正規分布

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Fig. 3 社会政策に関する価値観の年代別正規分布

 外交安保・憲法的価値観を設問ごとに見ると(Fig.4)、18-19歳は憲法改正については比較的他の年代に比べて情熱に乏しいことが分かります。全体のおよそ45%が自衛隊の憲法への明記に賛成しているのに対し、この年代では31%にとどまるからです。しかし、その分憲法改正反対が多いというわけでもなく、反対の比率も数ポイント下がり(37→33%)、残りの36%が“どちらともいえない/わからない”という回答になります。憲法に関しては、賛成が多いというよりも改正に強く反対する割合が10%に過ぎないという意味で(全体では強く反対しているのは18%)、単に護憲イデオロギーが上の年代よりも減っているだけだ、という見方ができます。

 また、安保法制による集団的自衛権行使の部分容認については、むしろ全体の回答結果よりもかなり否定的です(賛成は45→26%、反対は37→41%)。

 自衛隊の国際貢献、防衛費増額、テロ対策強化のための監視強化といった項目では、だいたい回答の傾向は全体よりも「ハト」よりであり、賛成が平均を10ポイントほど下回り、わからないと答える人の比率が大きくなります。中韓についても、上の年代がかなり強い脅威や不服を覚えているのに対して、この年代はより宥和的である傾向がうかがえます。

 一方で、日米同盟の強化や核武装の論点については、18-19歳の回答者の価値観は全体の平均に近いことが分かりました。同盟アレルギーは減少し(賛成は50→47%、反対は34→26%)、核武装についても全体の平均をほんの少しだけ賛成が上回ります(15→17%)。

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Fig. 4 外交安保・憲法に関する価値観(全体・18-19歳)

 つまり、近年保守化が指摘されている18-19歳の外交安保に関する価値観はむしろ総じて「ハト」であり、単に、上の年代と同盟アレルギーや護憲イデオロギーを共有しにくいことから、保守化が進んでいるという誤解を受けているのではないかということが言えます。経済や社会政策に着目すれば、彼らはさらにリベラルよりです。彼らの多くは、自民党の中でも穏健ハト派に位置づけられる政治家と価値観を同じくしています。一方で、多数派が中道リアリズムであるため、反米や9条を中心とした護憲的価値観に軸足を置いた政治勢力は彼らの多数を惹きつけないのです。

 選挙に行く若年層が上の世代よりも自民党に投票しがちであるという事実は存在します。しかし、彼らの価値観が保守であるというのは印象論にすぎません。上の世代の価値観の方がよっぽど保守だからです。世代交代によって、しだいに憲法と同盟を中心とした政治分断が大きな意味をなさなくなってくると、彼ら若者のもつ経済・社会的価値観こそが政治の主流になってくる。日本の未来の政治の主役は彼らなのですから、年長世代の価値尺度のみで彼らを測ってはならないのです。

★次週に続く。

■三浦瑠麗(みうら・るり)
1980年神奈川県生まれ。国際政治学者。東京大学農学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修了。東京大学政策ビジョン研究センター講師を経て、現在は山猫総合研究所代表。著書に『日本に絶望している人のための政治入門』『あなたに伝えたい政治の話』(文春新書)、『シビリアンの戦争』(岩波書店)、『21世紀の戦争と平和』(新潮社)などがある。
※本連載は、毎週月曜日に配信します。
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