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西川美和 ハコウマに乗って⑩ もしもしわたし

西川美和 ハコウマに乗って⑩ もしもしわたし

もしもしわたし夜更けにふと、用もなく人に電話をできますか。気がつけばそんな習慣を忘れていた。前触れもなく相手の時間に飛び入りすることに不躾さを抱くようになったのは、私だけではないと思う。「電話していい時間はありますか」と事前にアポを取る時代だ。まだ会社だろうか、子供を寝かしつけているだろうか、メールの返信に追われている頃だろうか。みんな互いの時間をひどく大切にしている。 夏の間実家に帰っていたら、後期高齢者枠に入った父母はたびたび親類や友人と電話することに気がついた。思い立

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落合博満への緊張感 鈴木忠平

落合博満への緊張感 鈴木忠平

文・鈴木忠平(ノンフィクションライター) なぜ、落合博満という人物を描こうと思ったのか? 拙著『嫌われた監督』が刊行されて以降、人からこう問われることがある。 落合は2003年の秋に、プロ球団中日ドラゴンズの監督に就任すると2011年まで指揮を執った。私はスポーツ新聞の記者としてその8年間を取材したのだが、番記者の仕事を終えてからも、なぜか落合に対する関心が消えなかった。「いつか、自分が死ぬまでに落合について書いてみよう」という気持ちがずっと心にあった。 その理由をあ

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マンガ『大地の子』第37話 二人の父|原作・山崎豊子

マンガ『大地の子』第37話 二人の父|原作・山崎豊子

第37話 二人の父 ★前回の話を読む。 ★最初から読む。

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贋作はなくならない 黒川博行

贋作はなくならない 黒川博行

文・黒川博行(作家) 事件が明るみに出て自分の小説と似ていると思った。偽版画事件のことだ。わたしが今回の事件をどうみたか、ちょっとお話ししましょう。 大阪の画商が奈良の版画作家に贋作を制作させ、美術オークションや大手百貨店で一枚数十万~数百万円で販売。今年9月、2人は警視庁に著作権法違反容疑で逮捕された。 わたしは美大出身で妻が日本画家なこともあり、美術業界の知り合いが多い。彼らのツテを辿って取材し、これまで“贋作美術短篇シリーズ”を3作上梓した。そこで見聞したのはネッ

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「日本が悪い」と叫ぶ経営者が悪い 楠木建
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「日本が悪い」と叫ぶ経営者が悪い 楠木建

遠いものほど良く見えるという“遠近歪曲バイアス”の罠。/文・楠木建(一橋ビジネススクール教授) 楠木氏 「世界で最もクリエイティブな国」「タイムマシン経営」という言葉がある。先進的な国や地域で萌芽している技術や経営手法を日本に持ち込むという考え方だ。筆者は、この発想を逆転した『逆・タイムマシン経営論』(日経BP)という本を昨年出した。メッセージを一言で言うと、「新聞・雑誌は寝かせて読め」。情報は鮮度が高いほど有用だと思われがちだが、近過去の歴史こそ大局観を獲得するのに役立

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日本の顔 野口聡一
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日本の顔 野口聡一

野口聡一 (のぐちそういち・宇宙飛行士) 三宅史郎(本社)=写真 今年5月2日、3度目の宇宙飛行から帰還した野口聡一(56)。2005年の最初のミッションではスペースシャトル、2009年の飛行ではソユーズに搭乗。今回は新型宇宙船である「クルードラゴン」に乗ってフロリダ沖に着水帰還した。3種類の違う方法で宇宙から帰還したのは、人類史上、彼が初めてである。 搭乗した「クルードラゴン」は修理・点検され、9月には民間人4名を乗せて再び宇宙へと飛び立った。 12月には日本人2名

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漫画家の母を見つめて 山崎デルス

漫画家の母を見つめて 山崎デルス

文・山崎デルス  (フリーランスカメラマン) リスボンで暮らし始めて4年目、母の描いた漫画『テルマエ・ロマエ』がとある漫画雑誌に掲載された。作品を見せられた時はその素っ頓狂な内容に驚いて、頭の正常な人間の発想ではないな、というのが素直な感想だった。だからまさかヒットするなどとは想像もしていなかった。 程なくして、母の夫で私の義理の父であるベッピは研究の拠点をシカゴ大学へと移し、母と当時14歳だった私は中学卒業までポルトガルに残ることになった。母が忙しくなったのも、その頃か

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宇宙で知った生と死の境界点 野口聡一
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宇宙で知った生と死の境界点 野口聡一

スペースXの民間宇宙船に搭乗、宇宙観光の「可能性」と「危険」を語る。/文・野口聡一(宇宙飛行士) 野口氏 「人類が宇宙に行く意味」イーロン・マスク率いる「スペースX」が開発した“民間宇宙船”「クルードラゴン」に乗って、今年5月2日、約半年ぶりに国際宇宙ステーション(ISS)から地球に帰ってきました。私にとって3度目の宇宙飛行でしたが、帰還時に海に着水するのは初めての経験でした。滑り台からプールに飛び込むくらいの衝撃しかなかったことも驚きましたし、地球は“水の惑星”なのだと

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“虫食い”サンクチュアリ 山田ルイ53世

“虫食い”サンクチュアリ 山田ルイ53世

文・山田ルイ53世(お笑い芸人) 「今日ちょっと、蚕を食べていただく箇所がありまして……」 と台本を指さしたのは、筆者が長年パーソナリティーを務める、ラジオ番組のディレクター氏。廃れつつある業界に新機軸をと、“蚕の味噌漬け”なる商品を開発した養蚕農家のご主人をゲストに迎え、そのお話を伺おうというのが、“蚕を食べる箇所”の概要だった。未来の食糧難を見据え、貴重なタンパク源として期待される昆虫食。話題性も意義も十分で、素晴らしい。にもかかわらず、「えー……またぁ!?」と不満の

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近江兄弟社・山村徹「商人道とキリスト教徒理念のハイブリッド経営」 ニッポンの社長⑬
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近江兄弟社・山村徹「商人道とキリスト教徒理念のハイブリッド経営」 ニッポンの社長⑬

文・樽谷哲也(ノンフィクション作家) 「究極のリップをつくろう」外出時、ポケットのどこかに入っていないと不安になるものといえば、いまや誰しもスマートフォンを挙げることであろう。寒気の厳しいこれからの季節は、大方、さらにスティック型の薬用メントール系リップクリームが加わるのではなかろうか。 多くの日本人がこの薬用リップには大きく「メンソレータム」と「メンターム」という2つ商品名があることを知っていよう。前者は一般用目薬で国内トップのシェアを持つ大阪のロート製薬の商品なのだが

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