文藝春秋digital

『くらしのアナキズム』著者・松村圭一郎さんインタビュー

〈国ってなんのためにあるのか?〉本書が冒頭から投げかけるこの問いを、漠然と心の中に抱いていた人も多いかもしれない。大地震や豪雨災害、そしてパンデミック。近年、私たちは生活を脅かす困難に何度も直面してきた。こうした想定外の事態が起きて行政が麻痺すると、国家は頼りなく感じてしまう。 本書は、日本民俗学の祖・柳田国男から昨年『ブルシット・ジョブ——クソどうでもいい仕事の理論』が話題となった人類学者デヴィッド・グレーバーまで、幅広い知見を丁寧に読み解きながら、国家に頼らない社会のあ

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片山杜秀さんの「今月の必読書」…『鷹将軍と鶴の味噌汁 江戸の鳥の美食学』菅豊

日本人の“鳥肉食文化”の小百科全書能に『善知鳥』なる演目がある。ウトウと読む。鳥の名という。シテは奥州の外ヶ浜の猟師の亡霊。「善知鳥を獲り続けた罪で、あの世で自分は雉にされ、善知鳥の化けた鷹に狩られている」と語り、地獄の責め苦を見せる。『善知鳥』の物語は文楽や歌舞伎の『奥州安達原』にも応用されている。善知鳥文治という侍が、禁制の鶴を密猟し、酷い目に遭う。 どちらも、殺生を悪とする仏教のおしえを踏まえた、鳥を巡る因果応報譚だろう。そんな物語が、能なら室町時代、文楽や歌舞伎なら

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大相撲新風録 琴ノ若|佐藤祥子

琴ノ若、千葉県松戸市出身、佐渡ヶ嶽部屋、23歳 親子3代、相撲の申し子がみる夢祖父は元横綱の琴櫻、元関脇の琴ノ若を父に持つ期待の新鋭が、2代目琴ノ若だ。父譲りの懐の深さと、188センチ165キロの恵まれた体躯を持つ琴ノ若は、角界きってのサラブレッドとして、その将来が嘱望されているひとりだ。 先の秋場所は自身最高位の前頭三枚目まで番付を上げ、上位陣に初挑戦する場所となった。膝をケガして10日目から無念の休場となるも、7日目の新横綱・照ノ富士との結びの一番では、一瞬、横綱

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本郷恵子さんの「今月の必読書」…『動物たちの家』奥山淳志

人間と動物、その儚い関係を綴る私は猫派である。猫が主人で、私は下僕。猫が好き放題にしていてくれれば、私も気が楽だ。だが犬との関係は楽ではない。けなげな目でひたと見つめられ、全身で無償の忠義を示されたら、どうしていいかわからない。犬の一途な魂にみあうほどの器量を、たいていの人間は持っていない。ああ、犬は切ない。 著者は1972年生まれ。4歳の時に、大阪の公営団地から奈良の新興住宅地に移り、そこで犬や、そのほかの生き物たちとの生活が始まった。「全身を毛や羽で覆われた温かで小さな

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角幡唯介さんの「今月の必読書」…『ハテラス船長の航海と冒険』ジュール・ヴェルヌ著 荒原邦博訳

北極点を目指した英雄の夢と実像『海底二万里』などで有名なジュール・ヴェルヌによる極地探検小説の初の完訳本である。ロマンあり、サバイバルあり、部下の反乱ありで、19世紀の極地探検の世界像をまるごとつめこんだ贅沢すぎる作品となっている。 作品は2部構成だ。第1部は実際の歴史をふまえた、とても実証的な筋の話である。19世紀の北極探検の主役は英国海軍の探検家たちだ。1840年代に彼らはフランクリン隊の大遭難をひきおこすが、その行方を探すために派遣された多くの隊により地理的解明が一気

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角田光代さんの「今月の必読書」…『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』サリー・ルーニー著 山崎まどか訳

「ありがち」の対極にある青春恋愛小説語り手のフランシスはトリニティ・カレッジに通う21歳の女性で、詩作にすぐれている。高校時代の同性の恋人、ボビーと別れてはいるものの今も親密で、2人でスポークン・ワードのパフォーマンスをしている。その活動によって知り合った30代の夫婦、俳優のニックとジャーナリストのメリッサと親交を持つ。顔立ちのうつくしいニックとフランシスは恋に落ち、ボビーはメリッサに惹かれていく。 あらすじにすると、ありがちな青春恋愛小説みたいで、そのことに私自身がびっく

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数字の科学 匂い受容体の種類 佐藤健太郎

サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します。 匂い受容体の種類=350~400種類新型コロナウイルス感染による、嗅覚障害が問題となっている。多くの場合、治癒とともに嗅覚も回復するが、中には匂いをほとんど感じない状態が半年以上続くケースもあるという。嗅覚が失われる理由は、まだ十分に解明されていない。 実をいえば、嗅覚というもの自体の研究が、あまり進んでいるとはいえない。有り体に言えば、視覚や聴覚ほどなくても困らない感覚であるため、研

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日本語探偵【ら】「ら抜きことば」がスタンダードになる日 飯間浩明

国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです。 【ら】「ら抜きことば」がスタンダードになる日新型コロナウイルス関連のニュースにかき消され、あまり話題になりませんでしたが、9月下旬に「国語に関する世論調査」の結果が公表されました。文化庁が毎年度行っている調査です。 調査の目玉は「不要不急」「コロナ禍」などのコロナ関連語がどの程度定着しているかというものでした。でも、私の関心はそこにはありませんでした。私が注目したのは、報告書の後半にある「ら抜

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詩 松下育男

羽ばたくようにすべり台の上に 商店街があった 毎日少しずつ 商品の位置がずれてゆく 瓶詰めだって 足を踏ん張っている 鳥カゴの中にも 商店街があった 人が寝静まったあと カゴの網目越しに 小さな街灯がともり 羽ばたくように 店が開く

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武田徹の新書時評 異文化を横断する技術

評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。 異文化を横断する技術スマホは、矛盾をはらんだ存在だ。人と人をつなぐための情報通信機器なのに、むしろ断絶を生み出しているのだから。 石川結貴『スマホ危機 親子の克服術』(文春新書)はスマホによって分断される親子関係を描く。スマホの先に広がる世界を知らない親は、SNSで知らない人とも抵抗なく交流する子どもの様子に恐怖を感じて子どものスマホを隠して逆ギレされたり、危険信号に気づけずに子どもを犯罪の被害者にして

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