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小松左京 親友の死に際して

『日本沈没』をはじめ数々の名作を残した小松左京(1931〜2011)。長年の交遊があった社会学者の加藤秀俊氏が思い出を綴る。

小松左京 ©文藝春秋

 1971年の5月、ぼくを訪ねて小松左京がホノルルまでご家族連れでおいでになったとき、モーターボートで海上散歩をしないか、と誘ってくれたので、小型のゴム製ボートに船外機をつけたボートを借りて、アラモアナ海岸の沖合を走り回った。太陽に焼けて、肌は真っ赤にふくれあがったが、おもしろかった。

 やれやれ、とホテルに戻ると、やがて小松が蒼白な顔つきできて、「悪いけど、きょうはこれっきりでひとりにしておいてくれないか」という。いったいどうしたの? ときいたら「高橋が死んだ」とひとこと口にして虚空を呆然と眺めている。高橋とは高橋和巳のこと。ぼくたちがモーターボートで遊んでいた留守中に訃報がはいっていたのであった。

加藤秀俊氏 ©文藝春秋

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