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泡のハタネズミ|大童澄瞳

文・大童澄瞳(漫画家)

『ドラえもん』からの影響だろうか、小学生頃からジワジワとSF好きになっていた私は、宇宙の果てと始まり、この世界の行く末に強く惹かれるようになっていた。――私は13.798±0.37 Gyr(宇宙マイクロ波背景放射観測に基づいた宇宙の年齢の推定値。約138億年。1Gyr(ギガイヤー)=10億年)の先端に生まれ、肉体の死を迎えた瞬間に時の流れに飲み込まれ置き去りにされる存在なのだ。私が死んでも時は進み続け、人類は衰退し発展し、ついに太陽が燃え尽きたその時、人類は、ヒトは果たして太陽系を脱出しているのか。自らの遺伝子をウイルスに託し広大な宇宙にパンスペルミアとして放出しているだろうか。あるいは人類絶滅後もどこかで「ネリリしキルルしハララしている」(「20億光年の孤独」谷川俊太郎)隣人がいるだろうか。生命の役割とは何だ。物理法則が支配するこの世界で生命はどんな理屈で生み出されるのだろう。素粒子から陽子や中性子、原子核となり、周りを電子が飛び交う。すべてが法則に従って星々を作る。太陽の周りを惑星が周回するように銀河も渦を巻く。銀河は銀河群となり銀河団となり超銀河団となる。そして大クエーサー群、泡のような銀河フィラメントとして宇宙の大規模構造を形成している。巨視的にみればいかにも自然で、我々にとっても身近な物理法則をただ拡大したかのようなフラクタルな世界だ。その連続の中に我々ヒトやハタネズミなどがいる。ヒトも渦の一種なのだろうか? ハタネズミも泡なのだろうか。ハタネズミはかわいい。ではヒトは宇宙の物理法則の中で何の役割があるのだろうか――等々。

高校生の頃、歴史に名を遺す人物か、少なくとも有名人くらいになりたいと思った。それは単に「死から免れたい」という思いから生まれた願望だ。宇宙の全てが解明されるまで生きていたい。「なぜ何もないのではなく、何かがあるのか?」その答えを知ることができないなら死んでも死にきれない。だれか私のことを覚えていてくれ。語り継いでくれ。思念が残るかはわからないが自分のコピーでもこの世界に置きさえすれば、それが我が命の代わりとなってくれるのではないかと考えた。太陽はいずれ燃え尽きるというのに。

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