見出し画像

世界経済の革命児 ジェド・マッカレブ(プログラマ・起業家)|大西康之

ジャーナリストの大西康之さんが、世界で活躍する“破格の経営者たち”を描く人物評伝シリーズ。今月紹介するのは、ジェド・マッカレブ(Jed McCaleb、プログラマ・起業家)です。

仮想通貨で国境を越えた決済システムを可能にする

仮想通貨の代名詞ビットコイン。この仕組みを考案した正体不明の「サトシ・ナカモト」は「謎の日本人」と言われる。名前が日本人を想起させるからであるが、流暢な英語を操り仮想通貨に関する論文も全て英語で書かれていることから、日本以外の国籍を持つ者、あるいはその集団という見方も強い。

考案者集団の一人と有力視されているのがジェド・マッカレブだ。現在は自らが設立した非営利団体ステラ開発基金の最高技術責任者(CTO)を務めている。ステラは法定通貨(一般の通貨)や仮想通貨の国境を越えた取引を可能にする仕組みを開発している団体だ。

しかしマッカレブについては、「MTGOX」(マウントゴックス)の設立者と説明した方が分かりやすいかもしれない。日本に本拠を置くマウントゴックスは2014年、何者かにシステムに侵入されて約480億円のビットコインを盗まれた。会社の運営に不正があったとされて、社長のマルク・カルプレスが逮捕され、ちょっとしたニュースになった。一攫千金を夢見て猫も杓子も群がったビットコインの狂騒に嫌気がさしたマッカレブは、2011年に会社をカルプレスに売却していたのでこの騒動には関与していない。

そもそもマッカレブがなぜマウントゴックスを日本に設立したか。それはこの会社が元々、人気カードゲームのトレーディングカードを売買するオンライン交換所として開設されたからだ。マウントゴックスという社名もこのカードゲームに由来している。カード交換所を仮想通貨の交換所に転換したのもマッカレブだ。彼はこの時期、しばらく日本に滞在していた。その時期とビットコインの誕生が重なるため、これがサトシ・ナカモト=マッカレブ説の根拠になっている。

サトシ・ナカモトがそうであるように、仮想通貨に関わる人物はプライベートを秘匿することが多い。発行量が少ないため一夜で何百倍にも跳ね上がり、何百分の一に暴落する仮想通貨の世界は、常に欲望が渦巻く。仮想通貨の開発者や企業は、悪玉ハッカーや反社会勢力に狙われやすく、「通貨」の秩序をも揺るがしかねないので国家からも睨まれる。だから姿を隠したがるマッカレブも、ご多分に漏れず、公開されているプライベート情報が極端に少ない。

ここから先は

814字
noteで展開する「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。同じ記事は、新サービス「文藝春秋 電子版」でお読みいただけます。新規登録なら「月あたり450円」から。詳しくはこちら→ https://bunshun.jp/bungeishunju

文藝春秋digital

¥900 / 月

月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に配信。月額900円。(「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。今後は、新規登録なら「…

「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了しました。今後は「文藝春秋 電子版」https://bunshun.jp/bungeishunju をご利用ください