哲学者たちの「メディア論」 ホットなラジオとクールなテレビ……次に来るメディアは?
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哲学者たちの「メディア論」 ホットなラジオとクールなテレビ……次に来るメディアは?

哲学者・岡本裕一朗は、古代から近未来まで、人類の歩みを「メディアの哲学」から読み解こうとする。現代ではテクストベースのTwitter、イメージを主体とするInstagram、Voicyをはじめとする音声配信アプリなどSNS競争が過熱。そして今年、シリコンバレーで人気の新たな音声メディアClubhouseが流行の兆しを見せている。このように、私たちは日常的にスマホを通じてさまざまメディアに触れている。

振り返れば、20世紀にラジオやTVなどマスメディアが発明されることで、世界的に大衆社会の時代へと突入した。今もなお、人々を取り巻くメディアの状況は変わっていないとも言える。マーシャル・マクルーハン、フリードリヒ・キットラー、ニクラス・ルーマン……。当時の哲学者たちの議論から「次に来るメディアは何か?」という問いへのヒントを見つけることができるかもしれない。(出典:岡本裕一朗『哲学と人類』)

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文・岡本 裕一朗(おかもと・ゆういちろう)
1954年、福岡生まれ。九州大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。玉川大学名誉教授。専門は西洋近現代思想。著書に、『いま世界の哲学者が考えていること』(ダイヤモンド社)、『フランス現代思想史――構造主義からデリダ以後へ』(中公新書)、『答えのない世界に立ち向かう哲学講座』(早川書房)、『ヘーゲルと現代思想の臨界』(ナカニシヤ出版)など多数。

●ホットなラジオ、クールなテレビ

19世紀の技術メディアが記憶保存メディアであったとすれば、20世紀のメディアは伝達メディアが中心となります。その中でも特に、20世紀前半に代表的となったのがラジオです。その意義を、ヘーリッシュは次のように表現しています。

ラジオによってはじめて可能になる経験は、今日、わたしたちにとってごくありふれたものだが、ラジオが普及しはじめた時代の人々にとっては、二重の意味で不気味なものであった。メディアは第一に、紙、ローラー、フィルムのように手で触れることができるものから解放され、妙に物質性を欠いた、空気のようなものになる。しかしそれによって、メディアは第二に、出来事をリアルタイムで大勢に中継することができるようになる。(ヘーリッシュ『メディアの歴史』)

このように、第一次世界大戦の後にラジオの時代が到来したと言われますが、これと同じように表現すれば、第二次世界大戦の後にテレビの時代が到来すると言えます。もちろん、散発的には、第二次大戦前からテレビ放送は行なわれていましたが、社会の中で爆発的に普及したのは戦後なのです。二つの世界大戦を境として、ラジオとテレビという20世紀の主要な伝達メディアが誕生したのです。

問題は、この二つをどう理解するかにあります。たとえば、マクルーハンは『メディア論』のなかで、「ホット」と「クール」という対概念を出して、ラジオは「ホットなメディア」、テレビは「クールなメディア」と区別しました。しかし、その区別はどのような意味なのでしょうか。

マクルーハンによれば、ホットとクールを区別するのは、「高精密度」、つまり「データを十分に満たされた状態」かどうか、とされます。この表現は必ずしも厳密とは思えませんが、たとえば「写真」がホット(「高精密度」)、漫画がクール(「低精密度」)と言われると、何となくイメージできるでしょう。

また、ホットとクールの区別は、「参加度」の違いによっても説明されます。たとえば、講義と演習が区別され、講義はホットなので学生の参加度が低く、演習はクールなので学生の参加度が高いとされます。この区別も、厳密というより、イメージ的には理解できます。

マクルーハンのこうした区別は、当時(1960年頃)の技術水準のもとで考えられていますので、今日でも同じように当てはまるかどうかは分かりません。また、マクルーハンの区別が、「ラジオと電話」、「映画とテレビ」における対比なので、「ラジオとテレビ」にそのまま使えるかどうかも検討が必要です。それでも一応、彼の区別を記しておくことにします。

ホット(高精密度、低参加度):ラジオ、映画、写真、講義、書物

クール(低精密度、高参加度):電話、テレビ、漫画、演習、対談

●ラジオを利用しろ!

マクルーハンの規定では、ラジオは「ホットなメディア」とされ、演習に比べて参加度の低い講義になぞらえられます。講義は基本的には「聴き従う」のであり、話す人の言葉を黙って受容する、というわけです。

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