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中島国彦「森鴎外」 文豪の知られざる意地 評者・本郷恵子

文豪の知られざる“意地”

2022年は、森鴎外(1862~1922)の生誕160年、没後100年の年だ。「観潮楼(かんちょうろう)」と名付けて30年を暮らした住居がおかれていた縁で、文京区ではさまざまな記念事業が行われている。私も文京区内の職場に勤めて30年以上になるが、今年は商店街の街路灯に鴎外の肖像をデザインした「森鴎外没後100年」のフラッグがとりつけられ、はためく文豪に見下ろされながら通勤している。

鴎外の作品は、10代のころからぼつぼつと読んできたが、感情移入するというよりも、(昨今ではあまり顧みられない)教養主義の一環としてのお勉強に近かったように思う。だが20代になって、それまで避けていた『ヰタ・セクスアリス』を手に取ったところ、あまりに率直な内容に驚き、鴎外先生との距離が一挙に縮まった気がした。『即興詩人』『諸国物語』などの翻訳作品も多い。非常に多面的な文学者なのだ。

その一方で公務に精励し、軍医の最高位である陸軍軍医総監・陸軍省医務局長の地位に昇っている。2人分の人生を生きた人物といえるだろう。親族には文才に恵まれた者が多く、なかでも「パッパ」を慕う子供たちの回想からは、非常に細やかで愛情深い父親の姿が浮かび上がってくる。

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