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旬選ジャーナル<目利きが選ぶ一押しニュース>|鈴木智彦

【一押しNEWS】山口組のハロウィンを待つ子供たち/7月9日、神戸新聞

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鈴木智彦(フリーライター)

ある直参組長によれば、およそ10年前の10月31日、神戸市の山口組総本部に珍客が来訪したという。当番がドアを開けると、玄関先に仮装した外国人の子供たちがいた。応対した組員が「Trick or Treat」と恫喝されたかは分からない。以降、山口組は毎年、ハロウィンになると近隣の子供たちに配るお菓子を用意するようになった。

訪問者は年々増加し、山口組からのプレゼントもまた増えた。ハロウィン当日、総本部裏にあるガレージのシャッター裏に、急ごしらえのファンシーなカウンターが作られる。最初は祝い事で使う紅白幕を張るなどチグハグだった飾り付けも、可愛いお化けやカボチャのイラストが描かれたゲートに替わった。最近は仮装する組員まで登場した。

ピックアップした神戸新聞の報道によれば、9月の兵庫県議会定例会に暴力団排除条例の改正案が提出されるという。可決されれば、県内の暴力団事務所に18歳未満が立ち入れなくなり、暴力団による金品の供与も禁じられる。ハロウィンが来ても、山口組は本部及び県内の関連事務所で、子供たちに菓子を配れない。

以前、山口組本部前で知り合った神戸新聞記者によれば、新聞にとっても、山口組は数字が獲れるネタなのだという。

「山口組の記事はネットでPVを稼ぐ。それ以上に閲覧数が多いのは、大きな事件か、破廉恥な犯罪が起きた時くらい」

2015年夏、6代目山口組は分裂し、神戸新聞は積極的に山口組を報道するようになったが、その前年のハロウィン当日、本部前でカメラを構えていたのは、私と『週刊実話』の記者のみだった。このニュースは爆ぜる確信があった。“山口組”と“ハロウィン”のギャップだけで興味が湧く。誰もがこぞって読むだろう。ネットには、山口組が1970年代からハロウィンで菓子を配っていたとする記事もあるが、これほどインパクトのあるニュースを、マスコミが40年も放置するはずがない。

この時用意された菓子はざっと1000円分、700袋あった。そんなにも多くの子供たちがやってくるのか半信半疑で待ち続けた。午後5時、総本部のシャッターが上がった。ほどなくして魔女の仮装をした小学生姉妹が現れ、直後、山口組本部は子供たちでごった返した。総本部近くの護国神社前公園でも配っており、一帯は完全にお祭り騒ぎだった。

お菓子をもらえたのは小学生以下で、中学生男子のグループが残念そうにしていたので、「親は心配しないの?」と声をかけてみた。

「お菓子をもらえるのは地蔵盆と同じ。ここのお菓子は豪華やねん。おかんにも(山口組に行くと)いってある」

地蔵盆は、「お接待」として近隣の子供に菓子を配る。大規模な祭りとなる長田の地蔵盆は有名で、市内のあちこちから子供たちが集まってくる。神戸在住の山口組組長らは、昔から地蔵盆で子供たちに菓子を配り続けてきた。そればかりか大人のためには盆踊りやカラオケ大会を開催し、ステージには芸能人も呼ばれる。暴力団はその地域のコミュニティから根を伸ばしている。すべての暴力団は、地元との共生なしに存在できない。

ハロウィンだけが問題視されるのは、世間の注目を集めるからだ。毎年、そのニュースは全国に拡散され、大きな話題となってしまう。悪事ではないので取り締まれず、こうなれば菓子配りを犯罪にするしか方法がない。社会にとっての暴力団は、どこまでも悪でなければならない。世の中には完璧な善も、完全な悪も存在しない。悪に塗れながらも善を希求するのが人間のしぶとさなのに、それはフィクションの中でしか語られない。

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