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星野博美著「世界は五反田から始まった」 東京の片隅で歴史が交叉する 評者・平松洋子

文藝春秋digital

東京の片隅で歴史が交叉する

地面の下に層をなす夥しい骨灰を訪ね歩き、『東京骨灰紀行』を著したのは作家、小沢信男。いっぽう、自分が生まれ育った五反田に照準を合わせ、ひとつの土地の深層を能うかぎり掘り起こすのは本書の著者、星野博美。東京の片隅に強く思い入れ、ローカルな土地に据えた立脚点が、日本近代史のうねりを呼び覚ます。

五反田を読み解く手掛かりは、30年前に父から手渡された祖父、量太郎の手記。便箋には、房総半島の海岸沿いの町で漁師の6男として生まれ、戦前の五反田に移り住んだ祖父と家族の来歴が綴られている。そして、記述はしだいに戦争の気配を帯び、東京大空襲にさらされて――。

祖父の書きものに深く分け入り、明らかにされてゆく大五反田(大正期から昭和初期、五反田界隈の工場地帯で働いた労働者の生活圏を、著者はこう呼ぶ)の過去。いまタワーマンションが建つ土地は、かつて大小の工場が立ち並ぶ「軍需城下町」の様相を呈し、祖父が営む「星野製作所」もまた軍需工場の下請けを担っていた。つまり、自身の家族も時局に関わり、「戦争に加担していた」。この事実に驚くとともに、著者は大五反田に生きた小市民のしぶとさ、生き残る術として捉える。

資料や記録を渉猟、自分の足で隅々を歩いて確かめ、立体的に土地を描く展開に目を見張る。たとえば、かつて五反田でオルグ活動を繰り広げたプロレタリア文学者、小林多喜二。その小説『党生活者』を入り口にして、五反田に暮らした労働者たちの姿、日本で初めて誕生した無産階級のための託児所や診療所の存在、幼子が口ずさんでいた革命歌、労働運動に携わる女性の葛藤……革命を目指す拠点としての土地が浮上し、ぞくぞくさせられる。

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