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浦川通 短歌AIをつくる 巻頭随筆

文・浦川通(研究者・アーティスト)

©iStock.com

昔から「算数」より「国語」が好きな子どもでした。原体験の一つに、和歌があります。短い文字列を介して、古代の人が感じた一瞬を、現代の自分が鮮明に読み取れる驚き……。その後、メディアアートに出会ったことで、数学を修め、コンピュータによるアートや広告を仕事にするのですが、やっぱり「言葉」をやってみたいと、朝日新聞社で〈AIと短歌〉をはじめて、2年になります。そしてこの夏、その成果が3つの企画として公開されました。

〈短歌AI〉は、入力される言葉をもとに、それに続く短歌をつくる「言語モデル」です。言語モデルとは、文字列によって表現された入力から、その続き=出力を生成するもの、と考えてよいでしょう。これを短歌の形でおこなう、つまり五・七・五・七・七の三十一文字(みそひともじ)で生成するのが、短歌AIです。

たとえば「揺れている>光の中で>」と冒頭の2句を入力すると、「見る夢は>過去の出来事>あるいは想起」といった残りの3句分の出力が返り、短歌(のようなもの)が完成します。

このモデルをまず論文の形で発表しました。その後、俵万智さんや永田和宏さんといった歌人の方々へおみせしながら、取材をする機会が得られます。その結果が、7月に記事として公開されました。「サラダ記念日」から「未来のサイズ」まで、俵さんの全歌集データから2300首余りを学習させた〈万智さんAI〉も開発しました。

「短歌を生成するなんて、嫌がられたり、怒られたりするのではないかしら」と、当初は心配していたのですが、これは杞憂だったようです。「より良い表現をさぐる伴走者」「やっていることは人と同じかも」といったAI像が得られ、それまで朧げだった〈AI=人でないものが短歌をつくる〉ことの意味や意義に輪郭を与えるような記事となりました。これは同時に「なぜ歌を詠むのか」といった〈人が短歌をつくる〉という行為にまで、あらためて問いを立てる試みにもなっています。

この一月後、「朝日歌壇」の入選歌約5万首を検索できるウェブサイト〈朝日歌壇ライブラリ〉が公開されました。単語や作者名による検索のほか、年代での絞り込みや頻出語の表示ができるコンテンツなのですが、ここへさらに〈AI検索〉という機能を備えています。これは〈入力された言葉と似た内容をもつ歌を検索する〉というものです。

たとえば「夏が終わった」という言葉を入力します。すると、〈この夏はビーチサンダル履かぬままこうして若さを置き忘れてゆく/上田結香〉〈友達と会えない二度目の夏が過ぎ少しカサカサしている私/松田わこ〉〈「かき氷売り切れ」の紙捨てるとき高校最後の夏が香った/赤松みなみ〉……このような歌が表示されました。

入力された文章表現のまわりに存在しているような歌を、並べてみることができるのです。「夏が終わった」ことを「夏が終わった」と直接的に表現することの、必ずしも多くないであろう、短歌の形態に適した検索、ということができるかもしれません。

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