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いま、あなたの娘と息子が危ない! スクールセクハラ「犠牲者」たちの告発

部活の顧問はホテルの前で「断るんか」とすごんだ――ある被害者女性は振り絞るようにこう明かした。何十年経っても消えることのない忌まわしい記憶…教師による児童へのセクハラを許すな!/文・秋山千佳(ジャーナリスト)

なぜ親にも学校にも言えなかったのか

 ブラインドを下ろしたビルの一室では、窓の外で降りだした雨の音も聴こえなかった。

 テーブルを挟んで向き合った彼女は、高校生だったおよそ10年前、信頼していた教師によって降りかかった悪夢をぽつりぽつりと語りだした。

「恋愛経験も性的な知識もない子どもだったので、先生から大人の世界を急に持ち込まれてわけがわからなかったし、はっきり悪事として捉えられなかったというか……。今振り返れば、なぜ最初の段階で親にも学校にも言えなかったのかと思うんですけど、先生をかばいたくなる生徒の思いが悪用されたんですかね」

 伏し目がちに回想するのは、田村千尋さん(仮名、28)。札幌市の私立高校に在学中の2年時から3年時にかけて、当時30代後半の男性美術教師によって、下半身を触られるなどの性被害を受け続けた。「口止め」としてわいせつな写真も撮られている。

 その教師が接近してきたのは、1年秋のこと。校内行事の準備で下校が遅くなり、同級生の女子たちと学校を出ようとすると、決まって教師と鉢合わせた。暗いから車で送っていくという教師の申し出に皆で乗ることが重なり、時にはカフェレストランで食事をごちそうになることもあった。そうしたことが毎週のようにあり、女子生徒の下校を待ち構えていた可能性もあるが、当時の田村さんは「優しくて面白い先生だな」と疑いを持たなかった。

 2年になり、1人で下校しようとしていた田村さんは玄関先で教師に呼び止められ、いつものように警戒せず車に乗り込んだ。道中「ファミレスで食事していきますか」と言われて店に寄り、食事を終えると「こんな美術展が開かれているから休みの日に一緒に観に行きませんか」と誘われ、美術が好きだった彼女は無邪気に喜んだ。今なら40近いおじさんが高校生を誘うなんておかしいと思えるんですが……と彼女は言う。

「うちの父親は仕事人間で気難しく、すぐ手が出る人で、それを母が泣いて止めてくれるものの、何となく家に帰りたくない気持ちがありました。一方で先生と話していると楽しいし、恥ずかしい話ですが、森のなかのメルヘンチックなお屋敷で先生とのんびり暮らせたらいいのになんて子どもじみた空想をしたこともあります。要するに現実的な恋ではないのですが、漠然と憧れを持っていた先生とお出かけできるのは嬉しかったんです」

写真を口止めに

 その教師が他の生徒たちと休日にカラオケに行ったなどと聞くこともあり、田村さんは美術館などに連れて行ってもらう距離の近さを「特別」とも考えなかったという。

 しかし教師と出かけた休日の帰り、夜道を走っていた車は、いつしか港のような人気のない場所に入って停まった。シートベルトを外して無言で凝視してくる教師に田村さんは怖くなり、うつむいて体をこわばらせた。教師はため息をつくと、「君ってやつは。私のことが好きじゃなかったのか」などと責め立てた。好きだと口にしたことはなかったが、何も言えずにいる田村さんにしびれを切らしたように教師は腕を伸ばしてきて、こう告げた。

「失礼しますね」

 スカートをめくられ、下着の中に手を入れられた田村さんは、混乱した頭で「これって私のせいなの、私が悪いのかな」としか考えられず、されるがままになった。

「後からその教師に言われたのは、『これは普通の行為で別に悪いことじゃないと君に繰り返し教えた』『男性に警戒心を持たないように誘導した』ということでした。だからなのか、最初の怖さもだんだん麻痺していって。体を触られるのは男女の関係であって、教師と生徒の関係じゃないということを当時は認識できなかった」

 行為への嫌悪感はあっても教師を慕う気持ちがあり、田村さんはその後も教師に声をかけられれば従った。やがて「18歳になったから」という説明だけでホテルに連れて行かれた。教師は絵を描く資料にすると言いながら裸の彼女を縄で緊縛し、写真に収めた。しばらくすると、「高校生に手を出した話を彼女にしたら怒られたから終わりにしたい」という一方的なメールが来て、性的接触は止んだ。彼女は表情を歪めてこう語る。

「これも後から言われたんですが、写真は口止めという意味もありますよと。その教師は今も教壇に立っています。あんなことを生徒にして社会的に許されるのはおかしいと成人してから気づき、すべてをぶちまけてやりたいと何度も考えました。でも、そのたびにリベンジポルノ的に写真を流出させられるかもしれないとよぎって怖くなり、こんなことになった自分を責めて精神的にも生活もぐちゃぐちゃになりました」

発覚するのは氷山の一角

 今年6月、群馬県で私立中学の27歳の男性教師が、担任を受け持つ2年の女子生徒を乗用車内に拉致監禁したとして逮捕され、殺人未遂やわいせつ目的略取などの罪で起訴された。「好意があった」「わいせつ目的だった」と供述する容疑者の異常さは耳目を集めた。

 しかし事件化しなければ明るみに出ないだけで、田村さんが経験したような事案は全国どこでも起こり続けてきた。

 こうした事案は、教師による児童生徒へのセクシュアル・ハラスメント、「スクールセクハラ」と総称される。私はこのスクールセクハラ問題をたびたび記事化してきたが、その都度「記事に出てくる話が自分とそっくりで驚いた」「何十年たっても昨日のことのように苦しい」といった当事者たちのやり場のない声が寄せられてきた。田村さんもその1人だ。

 文科省によると、平成29年度に性的行為などで懲戒処分された公立小中高校などの教員は、210人。このように発覚するのは氷山の一角であり、さらに群馬の事件のような私立学校は公的調査がなくこの数字に含まれておらず、実態も不明だ。

 森脇正博・京都教育大学附属京都小中学校教諭と榊原禎宏・京都教育大学教授が昨年発表した論文によると、公立教師によるわいせつ行為の処分件数は、全国の23歳以上60歳以下人口の発生率に対しておよそ1.5倍高い状況が続いている。年代は若手からベテランまで幅広く、校種でいうと小学校より中学、高校と発生率が上がる。森脇教諭はこうした傾向から「(小児性愛者といった)教師のパーソナリティーの問題以上に、中高特有の部活動指導など距離の近さが影響していると感じる」と指摘する。

教師の便器だったんかな

 兵庫県尼崎市の公立高校で被害に遭った小野香織さん(仮名、52)のケースは、まさに部活動から生じたものだった。

 家族連れで賑わう休日のショッピングセンター。その一角で小野さんは高校の卒業アルバムを開き、「真面目そうな子でしょう?」と体育会系部活動の集合写真を指差した。かつての彼女は、やや硬い表情で背筋を伸ばしている。少し離れた位置で直立する男性顧問が、加害教師だ。生活指導担当でもあり既婚者、子どももその頃生まれている。

 小野さんは遠い目をしてつぶやく。

「私、この教師の便器だったんかな、今思えば」。言葉に詰まる私に彼女はぎこちない笑みを向け、「かわいそうだと思わないでくださいね、そう思われると教師への憎しみがこみ上げるからしんどいんです」と続けた。

 小野さんの所属していた部は強豪として知られ、顧問教師は部員たちから恐れられる絶対的な存在だった。実力があった彼女は他の部員より大切に扱われ、親身に指導してもらえてありがたいと感じていたという。

 2年のある休日、小野さんは突然顧問に呼び出された。「車に乗れ。六甲へ行く」と指示され、走り込みにでも行くのだろうかと素直に従った。しかし車は目的のないドライブに終始し、その日はそれで終わった。

 後日、日曜日にまた同じような呼び出しがあった。何の疑いもなく顧問の赤い車に乗り込んだ小野さんは、やがて車が隣市のラブホテルの入口をくぐったことで混乱した。1部屋に1つガレージがあり、受付を通らず入室できる店だ。小野さんは振り返る。

「高校生ながらにどういう場所かはわかったので、部屋に入る前に拒んだんです。何なんですかって。そうしたらその人がものすごく怖い顔になって、『断るんか、ええんやな』と脅すように言われました。その後の記憶は翌日まで真っ白です」

 翌日、体育教官室に呼び出された小野さんは、にやつく顧問の顔と、まるで教え諭すような次の言葉が忘れられないという。

「なあどうや、股に何か挟んだ感じがするやろ。それが処女なんや。普通だから大丈夫や」

 それから彼女は毎日のように、教官室に呼び出されるようになった。体育倉庫に連れて行かれてはマットの上に「伏せろ」と指示され、レイプされた。教官室には外国のアダルトビデオがあり、「これ見てみ、先生方は皆見てるんや」と強要されたこともある。

「とにかく競技に必死だったし、続けるためには逆らえない。これも義務、練習の一環だと思って、行為の最中は頭と体の感覚を切り離すようにしていました。生身の人間じゃ生きていられなかったですよ。感覚を麻痺させてロボットになった感じです」

 そう話す小野さんは、当時まだ異性と交際したことがなかった。密かに思いを寄せる同級生はいたが、そんな思春期らしい心とは関係なく、健全な恋愛の段階をすっ飛ばして体の関係を強要されていたのだ。

 さらに顧問は、小野さんに対して「家から金を抜いてこい」と指示した。彼女が指示通りに親の財布から何枚かのお札を抜いていくと、その金でまたホテルに連れて行かれた。

 こうした行為は卒業まで続き、小野さんは大学でも競技を続けることになった。当時は顧問のおかげで進学できたとさえ思っていたという。「洗脳ですよね」と小野さんは言う。

 忌まわしい記憶に蓋をした彼女が、被害を明確に自覚した時には35歳になっていた。たまたま性的虐待の話を聞く機会があり、「心の奥底でもやもやしていた得体の知れないものが一気にマグマのように吹き出した」という。極度の不安感や対人恐怖に襲われ、駆け込んだ心療内科でPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断された。

 かつての顧問は、定年退職まで勤め上げた。そして今も、子どもたちに関わる立場にある。

部活、車、携帯電話

 スクールセクハラは、「指導し評価する者」と「教え子」というような力関係を利用して起こる。そこには支配と被支配の構造がある。特に小野さんのケースのように、指導者が絶対的存在になりがちな部活動は被害の温床になりやすい。

 NPO法人「スクール・セクシュアル・ハラスメント防止全国ネットワーク」(SSHP)代表の亀井明子さんはこう分析する。

「子どもは選手選びや内申書に響くと思うと抵抗しづらく、イエスと答えるしかない。こうした圧倒的な力関係を背景に、一般にイメージされるようなロリコン教師でなくとも、妻子のいるようなごく普通の中高年、ベテラン教師が加害者になるのがスクールセクハラです」

 元公立中学校教師の亀井さんは、約20年にわたり2,000件以上の被害相談を受けてきた。その経験から、「北海道から沖縄までどこでも起こっていて、まるで金太郎飴のように手口が似通っている」と指摘。相談に頻出するキーワードとして、「部活動」「車」「携帯電話」の3つを挙げる。

 もっとも、子ども自身が被害を打ち明けるハードルは高い。亀井さんいわく「子どもは被害が深刻になるほど、親が悲しむと考えて言い出せなくなる。また、加害教師に秘密を強要されていたり、口外すれば教師の立場が危うくなることをにおわされ、セクハラでなく指導だと無理に自分を納得させたりすることもある」。さらに性の話に抵抗がある子は多く、SSHPへ電話してきても、最初は体罰など別の話から入るケースが大半だという。

 ただ、こうした被害を教育現場でキャッチして対応できるかというと、亀井さんは「学校は閉鎖社会で、何か起こると保身や隠蔽工作に走る。自浄能力は極めて低い」と手厳しい。亀井さんも教師時代、女子生徒から被害相談を受け校長に対応を求めた際、教師らによって内部告発を潰すための数々の嫌がらせを受けたという。校長はそれを黙認した。

 実は冒頭の田村さんの学校は、加害教師のスクールセクハラを把握していた。この教師が別の女子生徒と性的なメールを交わしていることが明らかとなり、教師への厳重注意があったからだ。ただそれ以上の処分はなく、教壇に立ち続けた教師は、田村さんだけでなく別の生徒とも性的行為をしたと得意げに話していたという。また小野さんも、呼び出しのかかる教官室は他の教師が在室する時も多く、「ほぼ毎日のことで気づいている人もいたはず」と語る。しかし、指導者として実績のある顧問を咎める教師はいなかった。

 被害時にSOSを発したにもかかわらず、教師や親に黙殺された人もいる。

 島拓也さん(仮名、43)は「被害に遭った中学の3年間で過度に神経質になって、人間関係をうまく構築できなくなった」と悔しさをにじませる。千葉県松戸市の公立中学で、担任であり部活動の顧問だった男性教師から口腔性交などを強要され、周囲の大人も助けてくれなかった。こうした男子の被害は女子以上に表に出にくいが、SSHPへの相談でもおよそ20件に1件が男子のものだといい、決して特殊なケースではない。

 島さんは1年夏から、加害教師に「お前には問題がある」と難癖をつけられては夜遅くまで学校に残されるようになり、秋には性器を触られるようになった。両親に説明して助けを求めると、社会的地位の高い父親は「担任ともめるのは内申点に響くからまずい」、母親は「熱心な先生だから」と言うばかり。学年主任にも訴えたが、「あの先生がそんなことをするわけがない」と取り合ってもらえなかった。

 教師は「おれの言うことが聞けないならクラスから出て行け」「おれがいないとお前はいじめられる」などと、島さんの抵抗する気力を奪う言葉を繰り返した。行動もエスカレートしていき、2年になる前には、キスや口腔性交を強要されるようになった。

 こらえきれず、職員室で泣きながら訴えたこともある。だが、教頭やその場にいた教師らは目を丸くしたが黙っていた。島さんは加害教師から「お前が悪いことをしたんだ」と執拗に刷り込まれ、3年の2学期最終日に「これからは自由にしてやる」と一方的な宣言をされるまで、学校内外で被害を受け続けた。

 島さんは2年前、松戸市教育委員会に加害教師のわいせつ行為について調査を依頼した。以前地元で塾講師をしていた際、男子中学生から加害教師について「男子は全員股間を触られていて、他の先生たちも見ているのに何もしてくれません」と言われたことがあり、被害者は他にも数多いると感じていた。しかしその教師は数年前に退職し、呼出しに応じなかったとして、教委は書留を本人に送っただけで調査を打ち切ったという。(教委は「元教諭は退職し私人のため、調査権限がない」と回答)

 島さんは納得していない。

「加害教師だけでなく、犯行を把握しながら保身のために子どもを犠牲にして、何もしなかった人間が教育に関わっていることが許せないんです」

 こうした島さんの行動を、なぜ今になってと訝しむ人がいるかもしれない。

 性被害のトラウマ治療に長く携わってきた精神科医で臨床心理士の白川美也子医師は、次のように解説する。

「被害の渦中にある時は、心に傷を負ったとはっきり自覚していない人が少なくない。自分が受けているのは性被害ではないと加害教師によって思い込まされているからです。しかしその体験は、心の傷、つまりトラウマとなって残っています。そのトラウマが時間を経て、後遺症のような形で障害を引き起こす。その典型がPTSDであり、そうなってようやく被害が認識されるのです」

 白川医師の元にも、年月が経ってから診療に来る人が少なくないという。また、佐藤陽子・北海道大学大学院法学研究科准教授の論文によると、ドイツでは2015年、未成年者の性被害は満30歳まで公訴時効停止と法改正されたが、その背景には、子どもの性被害者のためのコールセンターに問い合わせた人の平均年齢が46歳というデータがあるという。それくらいの年齢になってようやく被害をはっきりと自覚し、人に話せるようになるということだ。

 白川医師は、スクールセクハラについて注意すべき点があると指摘する。

「子どもは性に関することを大人のように知っているわけではなく、言葉など、あらゆる不適切な性的な働きかけが性虐待になりうるし、トラウマとして残ることがあります」

心身の症状は時限爆弾

 菊池真奈美さん(仮名、45)も、島さん同様、被害時に助けを求めたものの周囲の大人から黙殺され、その影響に苦しんできた1人だ。長野県松本市の公立小学校で4年時から6年時まで、担任男性教師に体を撫でられるなどの被害を受けていた。定年間際だった教師は既婚者で娘がいた。こう振り返る。

「今でこそスクールセクハラと呼べますが、当時はそのような言葉もなく、被害を伝える言葉が小学生では足りなかったし、どんなに訴えても親も先生も信じてくれなくて……。やがて黙って我慢するようになり、『誰も信じてくれないし、守ってくれない』という孤独感が心に根付きました」

 4年時にこの学校へ転校してきた菊池さんは、前の学校にはなかったルールにショックを受けることになった。授業中に担任から指されて答えられないと、校舎の周囲800メートルを走るか、国語の教科書を1ページ暗唱するかを選ばなくてはならない。後者を選ぶと、男子は担任の前に立って行うが、女子の一部は担任の膝に座らされる。そして暗唱の間、半袖半ズボンの体操着から出た腕や脚を撫でられ続けるのだ。

 菊池さんの印象では、発育の良い子と3人いた転校生がターゲットだったという。「転校生は嫌だと言えず我慢するだろうと思われたのかもしれません」と菊池さんは言う。

 菊池さんは最初のうち、走る方を選んでいた。しかし授業中に走らされるため、教室に戻ると授業が進んでいてまた答えられず、2択から選択させられるのを繰り返した。次第に諦めて、暗唱を選ぶようになった。

 他校を知らない同級生の多くは、以前からあったルールに疑問を感じている様子はなかった。むしろ膝に乗せられない女子は、菊池さんに対し「転校生で先生にかわいがられている」と言いがかりをつけることもあった。子どもの目にはえこひいきと映ったようだ。

「問題を解かされている時に、担任が机の前にかがんで『どうだ』と言いながらふくらはぎを触ってくることもありました。そういうことがいつ起こるかわからないので常に緊張していたし、しばらくお腹が痛かった時期もあります」

 菊池さんは両親に精一杯話したが、「先生がそんなことをするはずがない」「宿題もちゃんと出してくれるし良い先生だ」と聞く耳を持ってもらえなかった。菊池さんの父親は教員家系に育った教師だった。

 冬のある日、菊池さんは偶然、ショッキングな光景を目にすることになった。放課後、校内の見回り当番だった菊池さんが教室の引き戸をそっと開けると、担任がズボンを下ろして座り、もぞもぞと動いていたのだ。何の行為かは理解できずとも、教室でお尻を出している異様さは彼女の目に焼き付いた。夏にも教室で、プールの授業で女子の脱いだ下着を担任が体に擦り付けていることがあった。他の教師たちに「担任の先生がおかしい」と伝えたが、彼らもまた「そんなことないよ、何言ってるの」と聞き流すだけだった。

 他者への不信感や孤独感を抱いて卒業した彼女は、中学では「いい子のまま」で高校は進学校に進んだが、突然摂食障害(過食症)となり、不登校になって退学した。

 私がかつて取材した別の被害者で、心身の症状が後になって突然出たことを「時限爆弾が弾けた」と表現した女性がいるが、菊池さんの場合、最初の“時限爆弾”がこの時だったのだろう。前出の島さんもやはり高校で精神状態が崩れ、退学している。記事中のどの被害者も、時期や症状に個人差があるものの、こうした“時限爆弾”に苦しめられている。

 菊池さんは成人してからも、摂食障害や睡眠導入剤の乱用問題を抱えてきた。痴漢のような別の性被害にも繰り返し遭ってきた。いずれも性被害の後遺症として起こりがちなことなのだが、菊池さんがその原因に思い当たり、トラウマ記憶を人に話すことによって苦しみを解消できたのはつい最近のことだ。彼女は語気を強める。

「昔のことだからもう忘れなさいと言う人もいますが、精神や人間関係を崩壊させて、何十年も引きずるものなんです。簡単に忘れるなんて無理ですよ、絶対に」

 これまで数多のスクールセクハラ被害が生じては埋もれていき、被害者は人知れず苦しんできた。だが今、表立って発言し、風穴を開けようとする人が出てきている。

次世代のため声を上げる

 名古屋市で性被害や虐待などのトラウマを抱えた女性の自助グループ「ピアサポート リボンの会」を運営する、Thrive(スライブ)代表の涌井佳奈さん(44)。ピアサポートとは、同じ立場の人たちが悩みや問題を語るコミュニティのことだ。互いにアドバイスを求めたり意見したりはしない。涌井さんはその意義をこう語る。

「理不尽で苦しい経験を受け止められたことのない人たちが、蓋をしてきた思いを言葉に出し、他の人たちと共感しあうことで、否定してきた自分を認めて自分の力で傷を癒やしていけるのです」

 涌井さんは私立高校1年の時、放課後の校内で「花を活けてほしい」と頼んできた30代の男性教師から突然スカートの中に手を入れられ、「ディープキスはこうするんだよ」とキスをされた。教師にほのかな恋心を抱いていた涌井さんが放心状態になっていると、「僕が3年間彼氏だから誰にも言っちゃいけないよ」と一方的に口止めされた。

 ポケベルを持たされて夜間に呼び出されては、車やホテルでわいせつ行為をさせられた。「痛い」と涌井さんが言えば、「絶対良くなるから、君のためだよ」と諭された。

「いずれ覚える時が来るのだから自分が教えてあげる、君のためだ、というような言葉は加害教師の常套句だといいます。一切経験のなかった私は『先生が言うならこれが付き合うということなんだ』と鵜呑みにする一方で、呼び出されてはただ性の処理をさせられるばかりの自分が薄汚れた存在だと感じるようになっていきました」

 教師は「大学に行ったらいい恋しなよ」と悪びれずに言ってきたが、実際に大学生になった涌井さんは、男性との関係をうまく築けず、自分を傷つけるような破滅的な衝動をコントロールできなくなった。その後、就職、結婚と表面上は普通に生きていたが、35歳で「死にたい気持ちが抑えきれなくなり」うつ病と診断された。そこでようやく、封印してきた過去がスクールセクハラであり、生きづらさの原点だと認識した。

 嫌だと言えなかった自分を責め、身近な人にも「隙があったから被害に遭ったんだ」などと言われたが、東京の自助グループで泣きながら本音をさらけ出し、初めて「自分は悪くない」と思うことができた。2015年に地元で「リボンの会」の活動を始めた。謝罪を促せればと今も加害教師がいる母校を訪ねたが、周囲から「先生の奥さんが自殺したらどうする」と止められ、会えなかった。活動について「有名になりたいんでしょ」などと言われ、傷ついたこともある。ただ、と涌井さんは言う。

「当事者が声を上げなければ、今の社会を変えられない。そんな義務感を持って活動を続けています」

 根幹にあるのは、現在小学生の娘を含め、次の世代に同じ苦しみを味わわせたくないという思いだ。

「性被害は体以上に、心の根本にある尊厳を底なしに傷つけられるもの。教師による性被害は一過性のニュースで終わりがちだし、ドラマなどの影響もあってか『先生と生徒の恋愛』と美化されて受け止められることもありますが、実際はそんな対等の関係ではない。被害の時点にとどまらず、大人になっても長く苦しみが続くものだと知ってもらいたいのです」

 この思いは私の取材に応じてくれた被害者たちに共通するものだった。今の子どもたちを守りたいという強い願いも。被害者たちが痛みとともに語ってくれた話はすべて実際に学校から起こってしまったことであり、また、どの子どもにも起こりうることなのだ。

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