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武田徹の新書時評|新型も全くの“未知”ではない

評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。

横浜港で検疫中だったクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号に乗り込み、感染対策が不十分なため船内が巨大なウイルス培養器になっていると動画サイトで告発した――。世界中に衝撃を与えた感染症専門医・岩田健太郎がかつて書いた『「感染症パニック」を防げ!』(光文社新書)が緊急増刷されている。

すっかり時の人となった著者ゆえに新型コロナウイルス情報に期待したいだろうが、それは刊行時期からして無理。だが、意外といっては失礼だが、リスクを過不足なく伝えるコミュニケーション技術を説明する本書の内容は実に役に立った。今、自分たちがどのようにコロナ関係の情報に触れているのか、省みる機会と視点を与えてくれるからだ。

反省を促す効果は木村知『病気は社会が引き起こす』(角川新書)にも認められる。たとえば今までの日本ではインフルエンザに罹ったかなと思ったら「すぐ受診、すぐ検査」が当然だった。しかし検査の精度は実はそう高くない。間違って陰性と判定された感染者が警戒せずに学校や会社に行き、流行を広げてしまう。

陽性なら陽性だったで、こちらは「すぐ投薬」となる。国民皆保険で安く済むことも追い風になって世界の抗インフル薬「タミフル」の7割が日本で処方されているという。安易な投薬は耐性ウイルス問題を発生させかねない。このように感染症の流行には社会のあり方が深く関わっている。その事情は新型コロナウイルス感染症でも変わらない。

中屋敷均『ウイルスは生きている』(講談社現代新書)は「生命」が40億年ほど前から地球上で「情報の保存と変革」を繰り返してきた壮大なひとつながりの現象であり、その中にウイルスも私たちも属していると書く。既に私たちの遺伝子の一部となっているウイルスも多いらしい。そうした大きな「生命」のつながりを意識することで、焦ってウイルスを退治しようとして自分たちの生活まで失ったという本末転倒を回避し、感染症をしのぎつつ生活をも守る両立を冷静に目指す心の余裕も生まれるのではないか。

今回、WHOによってパンデミックが宣言される中で入手が比較的容易そうな新書を探してみた。コロナ関係の新書が出揃う前なので最新刊とはいえないラインアップだが、読んでみて予想以上に豊かな収穫を感じた。平時に、時を超えて残る“書籍”のメディア特性を意識しつつ吟味して書かれた新書が、非常時をサバイブするうえで必要な大局観を示してくれる。いつ読み返しても新しい、それこそが優れた新書なのだろう。

(2020年5月号)


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