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栗山英樹「監督論」 石田雄太

「野球の神様って、すげえな」――勝利とロマンを使い分ける/石田雄太(スポーツジャーナリスト)

 頼まれた色紙に『夢は正夢』と綴る栗山英樹という野球人は、ロマンチストだ。キャスター時代、苦労してきた選手の活躍に目を潤ませ、理不尽なことに怒りを露わにした。

 しかし監督というポジションに就けば、ロマンばかりを追い掛けてはいられない。まして世界一を狙うとなれば、向き合わなければならない厳しい現実はいくらでも出てくる。取材を受けた経験がある選手にとっては、話をきちんと聞いて理解してくれる兄貴分だったはずの栗山が、ときに非情な指揮官となる。そのたびに「あの人は監督になって変わってしまった」と言われてしまう。かといってこれまでと同じように人当たりよく振る舞えば、監督ならばもっと厳しくすべきだとか、オーラが必要だとか、そんな声が出てきた。つまり監督になる前の“栗山英樹らしさ”と世の中がイメージする“監督らしさ”は真逆なのだ。その難しさについて栗山はこう話していた。

「僕は『今までの監督とはイメージが違う』と言われたいんです。『あの監督、何を考えているのかわからない』というのは誉め言葉ですからね(笑)。だって、こっちの心を見透かされてないってことだから……相手を驚かそうと思ったら、味方が驚いてくれないと無理。自分の頭の中を見透かされたら危機感も生まれないし、緊張感も失われるでしょう。だから僕は頭の中をさらけ出したくないと、いつも思っています」

栗山英樹氏 Ⓒ文藝春秋

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