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阿辻哲次「昔と同じ味やなぁ」父が涙声になった煙草

著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、阿辻哲次さん(京都大学名誉教授・漢字文化研究所所長)です。

大前門という煙草

父はかつて小さな商社に勤めており、一時期は中国東北地方のハルピンに住んでいたことがあるらしい。

酒好きの父は晩酌で機嫌がよくなると、おさない兄と私に、中国での思い出を楽しげに話したものだった。話の中に「中国語」のフレーズや単語がいくつもまじるので、私は無邪気にも「おとうちゃんは中国語がペラペラだ」と信じて疑わなかったが、後に大学で中国語を勉強して、それがとんでもない「中国語」であると知った。

父は戦後に活版印刷業を営み、私は子どものころ、活字という形をとった漢字に囲まれていた。漢字の研究を志すようになったのはその影響である、とある本に書いたことがあるが、しかしそれよりもっと前から、父の目をフィルターとした中国との接触があったことも、進路を決めるきっかけのひとつかと今は考える。

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