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独学という希望|読書猿

文・読書猿(著述家)

巻頭随筆「独学という希望」筆者近影_クレジット:塩川いづみ

読書猿氏
©塩川いづみ

世に読書家を名乗る人、読書 量を誇る人、博覧を称賛される人は多い。どれにも遠く及ばないので「読書家/読書人未満の、何者でもない者」という意味で「読書猿」と名乗っている。

名乗る筆名の通り、読むことはずっと不得意だった。

不得意なのに、なぜ読むことをやめないのか、それどころか、どうして『独学大全』という800ページ近い本まで書いてしまうのか、と尋ねる人にはこう答えている。

弱点というのは多分、能力や才能、その他機会や資源の不足だけから、できているのではない。それだけのことなら、人は忘却の淵に沈め、沈めたことすら忘れて、生きることができる。イソップ寓話の狐のように「あのブドウは酸っぱい」というレッテルを貼ることだってできる。手の届かないものは軽蔑し、できないことは〈取り組む価値がないもの〉とラベルを貼って自分のプライドを守ることもできる。現に我々の誰もが、自分にできないことの多くを〈軽蔑〉して〈忘却〉して、やり過ごしている。

けれども、そうしたキャンセル処理を繰り返しても、逃げられないものがある。逃れようとすればするほど、いよいよ強く引き寄せられる。目を逸らすことができない欠落や不足、振りほどいても追いかけてくる劣等感や、繰り返し打ち寄せてくる無力感が、ずっと消えない。弱点は、そういう「やり過ごし」ができないからこそ弱点であり続け、我々を繰り返し苦しめるのだ。

私にとって「読書」は、そして「学ぶこと」は、ずっとそうした弱点だった。容易にやり通せるもの、片付けられるものだったなら、こだわることも続けることも方法を工夫することも、それを本に書くことも、おそらくなかっただろう。

『独学大全』は、学習の達人や天才が書いたものではない。私は今も学び続ける、そして挫折し続ける一人の独学者として、この本を書いた。何者でもない猿が著者なので、書店に並ぶ多くの学習本のように、成功者の威光(ハロー効果)を期待できないものだった。

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