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船橋洋一の新世界地政学 「東アジアの興隆」と「西洋の没落」

今、世界では何が起きているのか? ジャーナリストの船橋洋一さんが最新の国際情勢を読み解きます。

新型コロナウイルス危機は、「東アジアの興隆」と「西洋の没落」という地政学的パーセプションをもたらしつつある。

コロナウイルスの感染者、なかでも人口比の感染関連死者数を東アジアは相当程度抑え込んでいるのに対して、欧米では東アジアの50倍から100倍も多い。欧州では最も善戦しているドイツでさえ、人口比致死率は韓国と日本の20倍近い。コロナウイルス感染が経済活動に大きな打撃を与えている点は西も東もそれほど変わらないが、回復の足取りは東アジアの方がはるかに軽い。中国が成長のエンジン役を果たしているほか、日本も製造業(大企業)の設備投資(計画含む)は増加に転じている。失業率も3%に止まっている。

コロナ危機のトンネルを抜けたら、東アジアは勝者、欧米は敗者というスコアカードの黄信号が点滅して見えるかもしれない。

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東アジアはSARSやMERS、H1N1型インフルエンザの度重なる襲来を受け、人々の間にパンデミックへの備えの意識が強い。マスク着用も自然と受け入れ、着用するかどうかを自らのアイデンティティの証とするような文化はない。また、個人の自由・プライバシーと社会の安定・秩序との間に横たわる本来的な緊張関係を均衡させようとする自制と社会的圧力が幅広く存在する。日本政府は強制力のあるロックダウンは法的制約でできず、あくまで政府の国民への要請ベースでの取り組みとなったが、国民が積極的に行動変容キャンペーンに参画した。

もう一つ、政府の国家経営(統治)の力と国民の政府に対する信頼感の有無である。東アジアの国々では総じて国民は政府の危機対応の指示に従い、「官民一丸」となって対応した。一方、欧米では、マスク着用にしてもロックダウンにしても、国民のかなりの部分が政府の措置に反対し、デモを繰り広げた。欧米民主主義国ではどこも「小さな政府」を要求する右からの攻撃と、多様なアイデンティティと文化を主張する左からの異議申し立てに挟撃され、国家の正統性が揺さぶられている。国民が国家の正統性への疑問を抱くと、国家経営の力は弱まる。

「東アジアの興隆」と「西洋の没落」を象徴するのが、このほど東アジア15カ国が締結したRCEP(地域包括的経済連携協定)の登場である。これに米国は参加していない。米国が関与できないからといって東アジアは待たない。トランプ政権のTPP脱退後、日本はCPTPP締結に向け、想像力ある外交力を発揮した。RCEPをまとめ上げる最後の段階で中国は柔軟な外交を展開した。

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