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スターは楽し ウィル・スミス|芝山幹郎

スターは楽し_ウィル・スミス

ウィル・スミス
ÂⒸ Billy Bennight/ZUMA Press Wire

対応自在の芸人魂

ウィル・スミスが久しぶりにアカデミー主演男優賞候補になった。新作『ドリームプラン』(2021)の演技が評価されてのことだが、前2回(2001年公開の『ALI アリ』と06年公開の『幸せのちから』)に比べて、今回は後押しをしたいノミネーションだ。

スミスが演じたのは、ヴィーナスとセリーナのウィリアムズ姉妹を「史上最高のテニス選手」に育てた父親リチャード・ウィリアムズの役だ。

リチャードはストイックな聖人からほど遠い。地味な生活者である反面、山師的な性格や天動説的な思考法は彼の代名詞だった。テニスの実戦経験が皆無だったことも、いかがわしさを増幅する。

だとしたら、ウィル・スミスにぴったりの役ではないか。

そう思った人の直感に私は賛成する。『アリ』のときは、「口八丁手八丁」の主人公に自身を重ね合わせようとする意欲が強すぎて、やや空転する部分があった。『幸せのちから』の場合は、美談への接近の仕方に曲が足りなかった。この役者をわかりやすい型にはめるのは逆効果ではないか、と私は思った。

それにひきかえ、『ドリームプラン』のスミスは多面体だ。持ち前の抜け目のなさに加えて、自虐と狡猾をぜにした笑いの技が急所で生きている。つまり、見ていて飽きない。父親と鬼教師と山師が一体化し、なんとも怪しげな人たらしの中年男が画面にうごめいている。

ウィル・スミスは1968年にフィラデルフィアで生まれた。MIT(マサチューセッツ工科大学)の奨学金を蹴って芸能界に進んだという噂も一時あったが、願書は出していないそうだ。進学するよりラップをやりたかったのだろう。

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