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コロナ下で読んだ「わたしのベスト3」 米社会の「ファンタジー」|橘玲

トランプ時代のアメリカは、「なぜこんなひどいことになったのか」という疑問や不安にこたえようとする野心的な著作を生みだした。

ネットワーク論の世界的権威クリスタキスは『ブループリント』で、該博な知識を縦横無尽に駆使して「人間の本性」を検証した。その結論は、目の前の暗鬱な出来事にもかかわらず、ヒトの遺伝子には「よき社会をつくる青写真(ブループリント)」が埋め込まれているとのポジティブなメッセージだった。かつて進化生物学や遺伝学は「ナチスの優生学の再来」として忌み嫌われたが、リベラルの理想主義(きれいごと)が次々と破綻するなかで、いまやそれが唯一残された「希望の科学」になったことがわかる。

モフェットは「昆虫学界のインディ・ジョーンズ」と称されるアリ研究者。それがなぜ『人はなぜ憎しみあうのか』を論じたかというと、何億という巨大な群れをつくる生き物が自然界に社会性昆虫とヒトだけだから。「社会的な動物としての人間は、チンパンジーやボノボのような近縁種よりアリに似ている」との前提は衝撃的だが、群れ(社会)をつくり「よそ者」を排除するわれわれの行動は不気味なほど社会性昆虫に近い。モフェットはクリスタキスより悲観的で、文明によってある程度は是正できるとしても、群れをつくる人間の本性は変わらないという。

トランプ大統領誕生後に刊行され大きな話題になったのが『ファンタジーランド』。アメリカという国は「自分たちだけのユートピア」を求めて故郷を捨てたピルグリム・ファーザーズという「常軌を逸したカルト教団」によって建設された。それ以来500年のあいだ、アメリカ人は「ファンタジー(魔術思考)」に支配され、しばしば「狂乱」に陥った。そうした歴史を顧みるならば、真実(トゥルース)を否定する大統領の登場はなんら驚くようなことではなく、この奇妙な国の必然だったという。アメリカ社会の次の「ファンタジー」は何だろうか?

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