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山下清 旅先では描かない放浪画家 山下浩 100周年記念企画「100年の100人」

日本全国を放浪し、旅先で見た風景を貼り絵で表現した山下清(1922~1971)。早逝の画家を甥である山下浩氏が語る。/文・山下浩(山下清作品管理事務所)

山下浩

山下氏

私が小学生の頃、同居していた伯父・山下清に「なぜ、こんなに細かい絵を描くの?」と聞いたことがある。伯父は少し困って「仕事だからな」と答えた。伯父の仕事とは、決して仕方なく行っていた作業ではない。“日本のゴッホ”と呼ばれていた伯父は、ヨーロッパ旅行の際にゴッホの墓を訪れ、「ゴッホは可哀そうだ。生涯で絵が1枚しか売れていない。死んでから有名になっても嬉しくないな」と言っていた。ゴッホに比べれば、有名画家として作品が生きている間に評価された自分に喜びを感じながら、49歳で人生の幕を引いた。それは、伯父が大好きであった花火のように短く輝いた生涯であった。

山下清は、絵を描きながら放浪する画家として映画やテレビドラマで放映されてきたが、ストーリーはフィクションであった。そもそも清は旅先で絵を描いていない。日記にも旅の目的は「美しい自然を楽しむこと」と書かれている。半年から1年間の放浪を繰り返していた清は旅先で見た風景を自分の脳裏に鮮明に焼きつけ、東京に戻った際に自分の記憶によるイメージを描いていたのである。しかも、清の作品は実際の風景より色鮮やかで、どこか日本人が求める懐かしさを思わせるものとなり、それが独特の作品となっていた。このため清の作品は「心の風景」と言われている。

山下清 ©山下清作品管理事務所

山下清 
©山下清作品管理事務所

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