【医療現場報告】絶望の「重症者病棟」から——「どう? 診れる?」「正直、無理です」
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【医療現場報告】絶望の「重症者病棟」から——「どう? 診れる?」「正直、無理です」

「正直無理です」。ゴールが見えない闘いのなか、現場は疲弊している。/
文・岡秀昭(埼玉医科大学総合医療センター総合診療内科・感染症科教授)、聞き手・河合香織(ノンフィクション作家)


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▶︎重症者の受け入れについては、医療崩壊が起こっていると判断していい状態
▶︎患者の希望を踏まえて入院の振り分けをする“自然なトリアージ”がおこなわれている
▶︎コロナ患者を日常的に診ている医師とそうではない医師の間で、状況判断にズレや分断が起こっている

岡秀昭氏 本人写真

岡氏

重症者の治療は負担がかなり大きい

――岡先生は昨年秋から自身のSNSを通じ、「新型コロナウイルスの第3波が医療崩壊を引き起こす」と警鐘を鳴らされてきました。今、医療現場で何が起こっているのでしょうか。

私が勤務する埼玉医科大学総合医療センターには、軽症・中等症患者向けの内科の病床が23床、重症病床のICU(集中治療室)が4床、さらに、周産期医療での確保分として5床、計32床あります。それが重症患者の受け入れを無理して増やし、常に6~7名がいらっしゃるので、稼働率が100パーセントを超えている。重症者の受け入れについては医療崩壊が起こっていると判断して良い状況です。コロナ重症者用のICUのベッドでは足りないので、中等者用のベッドも使用することで乗り切っている。治療に理想的な環境とは言えませんが、こうでもしないと患者さんを受け入れることはできません。

数字だけでは一般の方にはなかなか大変さが伝わりづらいようなのですが、重症者の治療というのは現場への負担がかなり大きい。コロナの重症者1人を診ることは、中等症の患者さん20人を診るくらいの感覚で、人、物、金の負担増加になります。重症者は人工呼吸器などの生命維持装置に、24時間つなぎっぱなしの状態。常に予断を許さないため、1時間おきに様子を見る必要があり、痰を吸ったり体の向きを変えたりと処置の数が多い。24時間つきっきりとなるわけです。また、腎臓や肝臓、心臓など様々な臓器にダメージを受けるため、専門医師によるチーム医療も必要になります。人手がとてもかかるのです。

これらをギリギリで回している状態ですが、これ以上の負荷が続くようなら医療事故や院内感染が起きる心配も高まってきます。それらを起こさないように皆、神経をすり減らし、懸命に仕事をしているのです。

医療従事者

重症者の治療にあたる医療従事者

毎日が100メートル走

コロナ対応は、例えるならば「長距離走」です。ですが今の我々は毎日、「100メートル走」を猛スピードで走りきる感覚で働いている。短距離走であれば今のペースで大丈夫なのですが、実際はゴールが見えない長距離走。現場の人間には疲弊感、心理的な負担がのしかかってきています。そうなると途中で足を止めてしまう人、離職者が出てくることも考えられる。

私が現場の監督者として一番心配しているのは、院内感染や自身の感染以上に、ともに闘う仲間が消えていくことです。看護部は2週間ごとに人員を入れ替えるという対策をとっていますが、感染症科の医師は交代なしでもう1年にわたり、現場にはりついている。中等症のベッドに少し空きがある中で、患者の受け入れの依頼があったとします。そういう時に、現場で頑張っている若い先生たちに「どう? 診れる?」と確認すると、「正直、無理です」という声が多い。1週間の短期決戦なら「僕も手伝うから、一緒に頑張ろう」と説得しますが、長期戦なので無理強いは出来ない。そのため、状況によっては苦渋の気持ちで、受け入れを断っている状態です。

――先生の病院ではトリアージ(患者の重症度にもとづく医療・治療の優先度の決定)はおこなわれていますか?

例えば、「80歳以上は人工呼吸器での治療は諦めてください」という「年齢」による治療の線引きはさすがにありません。その代わり、患者さんの受け入れの際、当院での可能な治療についての説明をおこないます。

患者さんの重症度や重症化の可能性を推定して、いずれ人工呼吸器が必要になる可能性が高いと判断した場合、「うちでは今、医療スタッフや医療機器のキャパシティーがなく、人工呼吸器の対応は、これ以上は不可能な状況です。それでも大丈夫ですか?」と事前に伝えるのです。どうしても人工呼吸器での治療を希望する患者さんには他の病院を当たってもらうことになりますが、重症者の医療崩壊が起こっている現状では、よほど幸運でないと他の病院も厳しいと思います。

そこで、「助かる見込みがあれば本当はやってほしいけど、高齢ですし、人工呼吸器は希望しません」と妥協して入院する高齢の患者さんもいらっしゃると推察します。そのような方であっても、必要な投薬治療や酸素療法、症状緩和の対症療法は十分に行いますが、それでも効果がない場合には人工呼吸器をつけることはなく、お看取りの方向になることもあります。

――どのような判断をされる方が多いのでしょうか。

人それぞれですが、基本的に90代以上の患者さんで人工呼吸器を希望する方は少ない傾向があると思います。一方、50代で糖尿病があるような方だと「それは困る」とおっしゃる。人工呼吸管理で徹底的な救命を目指すことが一般的です。なかには、比較的お若くても、本人の希望で「人工呼吸器のような辛い治療は希望しない」という方もいらっしゃいます。

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難しい「命の選択」

このように病院のキャパシティーの説明をすることで、患者さんの希望を踏まえて入院の振り分けをする“自然なトリアージ”がおこなわれているという状況があり、これが今の重症者の医療崩壊の一端です。

これは「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」という考え方にも繋がります。ACPとは終末期の治療・療養について、患者・その家族と医療従事者が事前に話し合って合意を形成するプロセスです。

ACPにおいて私たちは、治療をおこなった場合にどれぐらいの確率で救命できるのか、治療後に社会復帰できる見込みがどの程度かということまで説明します。人工呼吸器が外れても、長いリハビリが必要になることがある。特に高齢者で複数の合併症をお持ちの方は、回復の過程で亡くなってしまうことも少なくありません。これらを全て説明した上で、治療を受ける意思があるか、家族が支えていく覚悟があるかどうかを、患者さんやご家族と話し合っていく。命についての判断を下すわけですから、話し合いは何度も重ねます。

終末期の意思決定は非常に難しいので、自分のことでもなかなか判断できない方もいます。対応は各医師によりますが、私の場合は「自分の両親なら、あるいは自分ならこうするかな」、「一般的にはこういう判断をされる患者さんが多いですね」とアドバイスすることもあります。決して恣意的に誘導することがないよう、できる限り寄り添って、中立的にメリットとデメリットをお話しして決めていただくということになります。とはいえ、医療体制が逼迫している今の状況下では、これらの話し合いは医療従事者にとっていつも以上に負担が大きいですが……。

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“その時”を考えておく

――医師の負担も考えると、トリアージのような判断基準があったほうがいいでしょうか?

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