大西康之 ディミトリー・ザポロゼツ(GitLab共同創業者) 世界経済の革命児 最終回
その会社はウクライナ東部の都市、ハルキウで産声を上げた。ロシアとの国境に近い東部の要衝ハルキウでは今、ロシア軍とウクライナ軍の激しい戦闘が続いており、その映像が日本でも毎日のように流れる。ロシア軍による侵攻がなければ、ほとんどの日本人が耳にすることのなかった街だろう。
創業者の名前はディミトリー・ザポロゼツ。1989年にこの街で生まれ、ハルキウ国立自動車・高速道路大学を卒業した後、プログラマーとして働いていた。
プログラマー同士が離れた場所で共同作業するための「コードシェアリング」というソフトウエアがある。当時、コードシェアリングで主流だったのが米マイクロソフトが買収した「GitHub(ギットハブ)」だったが、ザポロゼツはこのソフトに不満があった。
天才肌のザポロゼツは寝食を忘れてギットハブを改良した。
「僕にはそれが、毎日井戸に水を汲みに行くより大切なことに思えたんだ」
会社が大きくなった後、ザポロゼツはたった一人で改良版を作り始めた理由をこう説明している。使いにくいプログラム、脆弱なプログラムを見たら、手を加えずにはいられない。それをより良くすることでプログラマーとしての自分の力量をコミュニティーの中で誇示する。典型的な「善玉ハッカー」だ。
「これでどうだ!」
ザポロゼツが組み上げた改良版は、仲間内で大好評だった。気を良くしたザポロゼツは改良版のコードをネット上に公開する。誰もが自由に使え、改良を加えられる「オープンソース」というやり方だ。
ある日、オランダの若きプログラマーがこのコードに目を止める。若者はそのコードの美しさに目を見張った。オランダ人プログラマー、シド・セイブランデイだ。セイブランデイはザポロゼツにコンタクトした。
「君が書いたこのソフトウエアでビジネスをしないか」
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