オヤジの話__改___1_

北康利さんのオヤジの話。

著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、北康利さん(作家)です。

大きな背中を追いかけて

 商社の石油子会社に勤めていた父は、ガソリンスタンドで働いている時代が長かった。一度、青い作業服で家に帰ってきたとき、小学生の私は学校で習ったばかりの言葉でこう言ってしまった。

「おとうさんはブルーカラーやねんな」

 私の前では素知らぬふりをしていたが、とてもショックだったようで、あとで母親からこっぴどく叱られた。

「中小企業や子会社の苦労を知れ。ガソリンスタンドで冬の寒い日に窓を拭いてくれる人の気持ちになれ」

 長じて後、よく父からそんな言葉を聞かされた。今でもガソリンスタンドで窓を拭いてくれる人には、しっかりとお礼を言うよう心がけている。

 父は昔の人には珍しいほどの長身で体格もよく、高校時代、バレー部だったにもかかわらず、陸上選手の代打で砲丸投げの試合に出て優勝したこともある。また実家が農家だったので、新婚時代には米俵を肩に担いで持って帰り、道行く人がぎょっとして振り返っていたそうだ。

 そんな頑健だった父は65歳の時、スキルス胃がんでわずか3ヵ月入院しただけで慌ただしくこの世を去っていった。

 ある日、死を悟ったのか、彼は何の前置きもなくこうつぶやいた。

「死ぬことは怖くない。思い残すことは何もない」

使用_2月号_オヤジ

ここから先は、有料コンテンツになります。今後、定期購読していただいた方限定のイベントなども予定しています。

★2020年2月号(1月配信)記事の目次はこちら

この続きをみるには

この続き: 596文字
この記事が含まれているマガジンを購読する
政治家や経営者のインタビュー、芸能人の対談、作家のエッセイ、渾身の調査報道、心揺さぶるノンフィクション……発行部数No.1の総合月刊誌『文藝春秋』が、あなたの人生を豊かに彩るコンテンツをお届けします。シェアしたくなる教養メディア。

文藝春秋digital

月額900円

月刊誌『文藝春秋』の特集記事&ウェブオリジナル記事が読み放題。2019年9月号以降の過去記事もアーカイブ。記事単体の購入よりもお得です。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
note.user.nickname || note.user.urlname

記事へのご意見・ご感想をお待ちしています。「#みんなの文藝春秋」をつけてご自身のnoteにお書きください。編集部がマガジンにピックアップします。皆さんの投稿、お待ちしています!

ありがとうございます!
7
シェアしたくなる教養メディア。100年近くの歴史がある総合月刊誌「文藝春秋」が、あなたの人生を豊かに彩るコンテンツを毎日お届けします。

こちらでもピックアップされています

文藝春秋digital
文藝春秋digital
  • ¥900 / 月

月刊誌『文藝春秋』の特集記事&ウェブオリジナル記事が読み放題。2019年9月号以降の過去記事もアーカイブ。記事単体の購入よりもお得です。

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。