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コロナ下で読んだ「わたしのベスト3」 今後の「生き方」を考える|本上まなみ

コロナ禍で手に取った本は、人生、生き方について書かれているものが多かった印象があります。

『なぜ、生きているのかと考えてみるのが今かもしれない』。国によって対応の仕方も千差万別だった第1波。国内状況と比較するため海外の情報を知りたくてネットで調べるうちに、著者のサイトに。ロックダウン下のパリで高校生の息子との生活を綴った日記。緊迫した日々の生活描写と、客観的に日本を見つめる視点が新鮮で、自粛期間中の心の支えになっていました。無心に豚まんの生地を捏ね、蒸したてを息子に食べさせる日もあれば、悪化する一途の世界情勢に落ち込み、ぽろりと弱音を吐いてしまう日も。息子さんのさりげないフォローに、飾らぬ親子の関係性が浮かび上がる。改めて書籍化された本を読んで、あああの時、私も辛いっていうことを言いたかったんだな、と気づきました。

『チョンキンマンションのボスは知っている』は大宅壮一ノンフィクション賞、河合隼雄学芸賞ダブル受賞作品。中古車ディーラーのタンザニア人カラマ氏が本書の中心的存在=ボスなのですが、一見スマートでも合理的でもなさそうな仕事ぶりが実は上手く経済を回しているという事実。事業に失敗しても浮上のチャンスがあったり、騙されたとしても関係を絶つことはしないという、独特のバランス感覚、処世術が面白かった。柔軟性こそは今後生きる上でのキーワードになりそうです。

『花森安治選集2』は「ある日本人の暮し」と題した、市井の人を追う伝説のルポルタージュ。個々の人生はその人だけのものであることは承知しながらも、頁をめくるうちに、もしかすると昭和という時代を生き抜いた、私の父や母、祖父母の物語であったかもしれない、という風に胸に迫ってきます。平穏とは言えぬ道のりを歩んできたそれぞれの人生に敬意を払いつつ、克明に冷静に記録を取り、記事にまとめてゆく。揺るぎない花森氏の視点がこの企画の礎。読み応えある一冊です。

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