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2021年1月の記事一覧

歩きながら思考する|ハルノ宵子

著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、ハルノ宵子(漫画家)です。 吉本隆明ってオヤジ、人様にはどんな風に映っていたのだろうか? 若い人にとっては、もはや歴史上(?)の人物みたいなもんで、名前くらいしか知らない、思想家のスゴイ人だろう。かつての論敵にとっては、とにかく執念深い、こじらすとやっかいな狂犬みたいなヤツ、だったことだろう。付き合いのあった編集者の方々にとっては、エラぶったとこの無いフラットな人、でも“地雷”を踏んだら取り返しのつかない(しかもそのスイッ

新しい血|東山彰良

文・東山彰良(作家) 今年1月11日に行われた台湾総統選挙では、大方の予想通り民進党・蔡英文が再選を果たした。820万票を集めての圧勝だった。 対立候補の国民党・韓国瑜は「安全でお金持ちの台湾がいいか、危険で貧乏な台湾がいいか」と民衆に問いかけた。台湾独立を主張する民進党が勝てば中国が黙っちゃいない、逆に我々国民党が勝てば14億の市場が開けているぞというわけだ。が、そのようなポピュリズムに与したのは550万人に留まった。つまり台湾人のおよそ6割が、たとえこれから危険が待ち

連載小説「李王家の縁談」#14 |林真理子

【前号まで】 昭和六年(一九三一)十二月。梨本宮伊都子妃の娘方子のもとに男の子が生まれた。方子とその夫李垠は彼を玖と名付け、「二十九代の李王家の王」の誕生を心底喜んだ。翌年、方子の義妹徳恵のもとに女の子が生まれる。よろこびごとの続く伊都子の心に、精神病を患う徳恵だけが影を落としていた。 ★前回の話を読む。

【初対談】安藤優子×有働由美子「だからニュースキャスターはやめられない」

news zeroメインキャスターの有働さんが“時代を作った人たち”の本音に迫る対談企画「有働由美子のマイフェアパーソン」。今回のゲストはキャスターの安藤優子さんです。実は対談するのは初という2人。ニュースキャスターとしての熱い思いを語り合ってくれました。 安藤氏(左)と有働氏(右) 民放の“顔”が初共演。初めて語る生放送の舞台裏 有働 こうしてお話しさせていただくのは今回が初めてですよね。私は前々から「安藤さんに会いたい」といろんな人に言いまくっていたのですが、今日つい

数字の科学 地球上の人工物の総重量|佐藤健太郎

サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します。 今回の数字:地球上の人工物の総重量=1兆1000億トン 地球の46億年にわたる歴史は、いくつかの時代に区分されている。区分は代、紀、世などいくつかの階層に分かれており、現代は新生代の第4紀、完新世という時代に属するのだそうだ。完新世というのは、約1万年前に最後の氷河期が終了してから後の時期を指す。温暖化が進んで氷河が溶け、人類が世界に拡散し、農耕が行われるようになった時代だ。 だが最近

主役は君たちだ|相良南海夫

文・相良南海夫(早稲田大学ラグビー蹴球部監督) 国立競技場を満員にした約5万7000人の観衆の前で、優勝したときにだけ歌うことのできる部歌「荒ぶる」を唱和する――1月11日、ピッチで私は感無量でした。11季ぶりのラグビー全国大学選手権の優勝、その上、昨年準決勝で敗退した宿敵の明治大学を跳ね返しての勝利です。 早大ラグビー蹴球部の監督就任への打診をOB会から受けたのは、2017年のクリスマスでした。当時、成績が低迷していた早大ラグビー部の監督を引き受けることは、周りから見れ

連載小説「ミス・サンシャイン」#5|吉田修一

【前号まで】 昭和の大女優・和楽京子こと石田鈴の元で荷物整理のアルバイトをする岡田一心は、思いを寄せる桃田真希に彼氏がいることを知る。一方、和楽京子は『竹取物語』でカンヌ国際映画祭の最優秀女優賞を受賞後、活躍の場をハリウッドに移した際に暮らした邸宅について明かした。 ★前回の話を読む。 ★最初から読む。 ハリウッドスター 一九五〇年代の終わり、鈴(すず)さんが三年ほど暮らしたビバリーヒルズの家は、錚々たる映画スターたちの家々が建ち並ぶ通りにあった。  実はこの邸宅、旧帝

山口百恵・森昌子・桜田淳子「母としての中三トリオ」

1月30日、山口百恵さんの特集番組「伝説のコンサート“山口百恵 1980.10.5 日本武道館”」がNHK総合で再放送される。人気絶頂の中での芸能界引退から40年。昨年、「三浦百惠」名義で出版した39年ぶりの自著であるキルト作品集『時間(とき)の花束 Bouquet du temps[幸せな出逢いに包まれて]』(日本ヴォーグ社)には発売前から予約が殺到し、大きな話題を呼んだ。 「花の中三トリオ」と呼ばれ人気を博した山口百恵、森昌子、桜田淳子。彼女たちは、それぞれどんな人生を

韓国大統領ブレーン、徴用工問題への提言「“文在寅は反日”の先入観を捨て、直接会って解決を」

任期満了まで残り1年4カ月を切った文在寅大統領。その政権発足以来、外交・安全保障政策におけるブレーンを務めるのが文正仁・統一外交安保特別補佐官(69)である。同氏は北朝鮮との関係改善を重視し、南北会談などにおいて重要な役回りを演じてきた。 一方、保守派からは「親北・反米のイデオローグ」として批判され、約1年前には国際会議で「北朝鮮の非核化が行われずに在韓米軍が撤退したら、中国が韓国に『核の傘』を提供し、北朝鮮と交渉する案はどうだろう」と中国側に問いかけ、物議を醸した。 外

【連載】EXILEになれなくて #14|小林直己

第二幕 EXILEという夢の作り方* ★前回はこちら ★最初から読む 九場 元旦のEXILEメンバー会議  そんなRAG POUNDでの活動を経て、僕は2006年にEXPGに入り、2007年11月に二代目J Soul Brothersのメンバーになった。1年以上のインディーズでの活動と、全国をバス一台で回る「武者修行」と題したいわゆる「ドサ回り」にて経験を積み、2009年にEXILEに加入した。  EXILEでは様々なツアーを経験してきた。加入した2009年にはアリー

船橋洋一の新世界地政学 米国の“同盟カントリー・リスク”

今、世界では何が起きているのか? ジャーナリストの船橋洋一さんが最新の国際情勢を読み解きます。 バイデン次期米大統領は、米国の世界への再関与と同盟重視を新政権の最重要外交課題に掲げている。バイデンは大統領選挙中、トランプ大統領の同盟軽視が米国の国際的な地位と影響力を著しく損なったと厳しく批判してきた。確かに、トランプはEU諸国を貿易上の「敵(foe)」呼ばわりし、米国のNATO脱退を匂わし、ドイツからの米軍撤退を進めるなど、同盟を弱めた。アジア太平洋でも米朝首脳会談の“取引

父親のこと|鴻上尚史

著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、鴻上尚史さん(作家・演出家)です。 父親のこと去年の12月、父親は亡くなった。 故郷の「サービス付き介護住宅」という所が父親の最後の住処になった。 折りを見ては帰省し、父親を尋ねた。「何か欲しいものはない?」と聞くと、「小説と寿司」と答えた。『ハリー・ポッター』も『ナルニア国物語』も『指輪物語』も『宮本武蔵』も『坂の上の雲』も『竜馬がゆく』も、父親は熱心に読み続けた。 寿司は、回転寿司のお土産用のものだったが、父親は

保阪正康「日本の地下水脈」|国家主義者たちの群像

北一輝や大川周明らの思想に感電した青年将校は「昭和維新」に突き進むが……。/文・保阪正康(昭和史研究家)、構成・栗原俊雄(毎日新聞記者) 保阪氏 老壮会以降の右派 明治維新から50年余が過ぎた大正中期、日本社会は曲がり角に直面していた。 第1次世界大戦で日本は戦勝国となり、国際連盟の常任理事国として列強の一角に加わった。だが、国内では富国強兵政策の矛盾が露呈していた。工業化が急速に進む一方、公害などの都市問題が顕著になった。都市と農村の経済格差も深刻化した。大戦末期の大

哲学者たちの「メディア論」 ホットなラジオとクールなテレビ……次に来るメディアは?

哲学者・岡本裕一朗は、古代から近未来まで、人類の歩みを「メディアの哲学」から読み解こうとする。現代ではテクストベースのTwitter、イメージを主体とするInstagram、Voicyをはじめとする音声配信アプリなどSNS競争が過熱。そして今年、シリコンバレーで人気の新たな音声メディアClubhouseが流行の兆しを見せている。このように、私たちは日常的にスマホを通じてさまざまメディアに触れている。 振り返れば、20世紀にラジオやTVなどマスメディアが発明されることで、世界