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「監督のレベルが下がるから、野球全体のレベルも下がる……」ノムさんがボヤいていた“プロ野球の未来”

野村克也さんは、『文藝春秋』の常連といえる有識者のひとりでした。2018年1月号の小誌創刊95周年記念の大型企画「文藝春秋を彩った95人」にもご登場いただき、『文藝春秋と私』というテーマで自らの野球哲学を語っています。今回、その時のインタビューを特別に無料公開します。野村さんのご冥福をお祈り申し上げます。

「文藝春秋」で過去に受けたインタビューには、「カニの念仏 長嶋巨人への挑発」(1993年5月号)とか、「長嶋父子にはもう頼るな」(2015年8月号)というタイトルがついています。僕は自分の役割を理解していますから、あえて悪玉や批判役を引き受けてきたのです。

 長嶋は野球役者です。現役時代の特技は、易しいサードゴロを難しくさばいて見せること。「自分を見に来てくれるお客さんがいる限り、ウケるプレーをしなきゃいけない」というのが本人の弁で、さすがは東京六大学のスターから巨人の人気者になった男だ、と感心しました。

 かたや僕は、田舎の高校出で、パ・リーグの南海ホークスにテスト生として入団。しかもキャッチャーです。

 野球をドラマに例えるなら、筋書きを書いて演出までやるのがキャッチャーです。1球ごとに考えてサインを出して、監督以上の仕事をします。けれども報われず、得は何もありません。チームが完封勝利を収めたあと、ピッチャーがヒーローインタビューを受けているのを、ベンチに帰ってプロテクターやレガースを外しながら聞く。いつも「サインを出したのは俺やないか」とぼやいていたら、こんな曲がった性格になってしまいました。

 キャッチャーは、理想主義で完璧主義です。頭の中では、完全試合しか考えていません。しかし僕は3017試合も出場したのに、ノーヒットノーランさえ一度もない。9回2アウトから代打に初ヒットを打たれて一安打完封、という試合があっただけでした。

 目立たないキャッチャーの役割を正しく評価できる監督に、ヘボ監督はいません。V9巨人の川上哲治監督が森祇晶(当時は森昌彦)を抜擢して使い続けたように、名監督はみんなキャッチャーを育てる重要性を知っています。ところが最近は、勝敗だけで判断してしまう。勝てばいいリード、負ければダメなリード。短絡的に答えを求めるから、名キャッチャーを育てるどころか、レギュラーさえ固定できないチームばかりなのです。

 現在の12球団で、キャッチャー出身の監督は楽天の梨田昌孝だけ。セ・リーグは、中日の森繁和以外の5球団が外野手出身の監督です。外野手出身に名監督はいません。他の守備位置に比べて自ら考える機会が少なく、細かいところに目がいかないことが理由のひとつです。一般企業でも、ダメな社員は「外野へ行かせろ」と言うではないですか。

 野球は頭のスポーツです。プロのレベルになると技術で大きな差はつかず、頭をどう使うかが勝負を分けるのです。一球投げるごとに間ができるスポーツは、野球だけでしょう。あれは、攻守ともに次のプレーを考え、備えるための時間です。ならば野球というものを理論的に捉え、徹底的に追求するのがプロではないでしょうか。

 いまは、そんなふうに頭を使う選手も監督もいなくなりました。処世術の時代だから、監督になれるのは世渡りやゴマすりが上手いのばかり。監督のレベルがどんどん下がるから、野球全体のレベルも下がる。深く考えないプレーを見たって、評論家として原稿に書くことがない。これから先、プロ野球の発展が気掛かりです。ボヤキは尽きません。


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