マガジンのカバー画像

文藝春秋digital

一流の作家や知識人、ジャーナリストによる記事・論考・ルポルタージュなどを毎日配信。執筆陣のオンラインイベントも毎月開催中。月額900円で記事が読み放題&イベント見放題のサービスで… もっと読む
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に幅広いテーマの記事を配信しています。政治家や経営者のインタビュ… もっと詳しく
¥900 / 月
運営しているクリエイター

#塩野七生

塩野七生 エライ人はやっぱりエライのよ 日本人へ221

文・塩野七生(作家・在イタリア) 実は、ローマでの1カ月の入院生活にもその後の自宅でのリハビリにも耐えられたのは、一にも二にも本を読む毎日であったからだ。入院中とて個室だから備えつけのテレビで番組を選ぶのは自由でも、ニュースを見るのは日に1度だけ。それ以外はクラシック音楽か動物のドキュメンタリーを見るぐらいで、本を読む時間は充分にあった。 と言っても、横文字はしんどいからタテ文字。つまり日本語で書かれた本。それも日本の文学で鴎外、漱石、荷風、谷崎、芥川ときて中島敦どまりだ

スキ
13

塩野七生 ローマでの“大患” 自宅で転倒、法王さま御用達病院に入院したが…

文・塩野七生(作家・在イタリア) 塩野氏 サマにならない闘病記 作家の闘病記となればやはり、胃潰瘍とか結核とか癌のように病気らしい病気でないと、まずもってサマにならない。読む人の同情さえも呼ばないからである。ところが私ときたら……。 異変は8月24日の午後に起った。天気は良いし散歩にでも出るかと思ったのがいけなかった。寝室で外出着に着替えていたときじゅうたんに靴のかかとを引っかけ、無意識に頭を守ろうとしたのか右半身からモロに転倒したのだ。尋常でない痛みだった。起てないの

スキ
28

塩野七生 外交とは、血を流さない戦争のこと 日本人へ220

文・塩野七生(作家・在イタリア) 8月15日、アフガニスタンの首都カブールは、あっという間にタリバンに制圧された。そして1週間が過ぎた今日になっても、アメリカを始めとしてこの20年間アフガンに兵とカネをつぎこんできた西欧諸国の混乱はつづいている。1年以上も前からアメリカとタリバン側の交渉は始まっていたのに結果がこれか、というショックによるのだろう。私にもショックだったが、それはちょっとちがって、アメリカ側の情報収集はどうなっていたのかということだった。なにしろ、タリバンを追

スキ
21

塩野七生 国民を幸せにするスポーツ 日本人へ219

文・塩野七生(作家・在イタリア) 7月11日の夜遅く、わが家の二重ガラスの窓さえ通して入ってくる歓声を聴きながら思った。イタリア人を右派や左派の別なく団結させることができるのは「カルチョ」だけなのだ、と。 先月号で「勝てる男」というテーマで取りあげた2人のうちの1人が、早くもそれを立証してくれたのである。その日は、サッカーのヨーロッパ選手権の決勝の日。そこまで勝ち進んできたイタリアの敵は、イングランドで、戦場もロンドンにあるウェンブリー。観客も大半が英国人で、イタリア人は

スキ
19

塩野七生「日本人へ」|勝てる男

文・塩野七生(作家・在イタリア) イタリアは今、元気になりつつある。コロナで落ちるところまで落ちた状況から立ち直りつつあるということだ。とは言ってもまだ、コロナの完全撲滅に成功したわけではない。ただし、犠牲者ゼロなどという非現実的な要求は、野党もマスコミもマスでない「コミ」も一言も口にしないのがイタリア人なので、感染者も病床も死者もコントロール可能な数にはなったということだ。ワクチンの接種率も劇的に改善した。日本では大臣が担当しているのを、軍隊のロジの専門家にまかせたからで

スキ
17

塩野七生「日本人へ」|窮極のソフト・パワー「知恵」

文・塩野七生(作家・在イタリア) 『21世紀の人と国土』と題した、ひと頃は日本の国土計画の「顔」のような存在であった故・下河辺淳(しもこうべあつし)の評伝(著者は塩谷隆英、発行元は商事法務)を読んでいて、そう言えば下河辺さんはよく言っていたな、と思い出した。それは次の一句である。 「われらが日本には、カネもなければ技術もない。だから、知恵を働かせるしかない」 この一句は、今の日本人には少々説明が必要かもしれない。“ひと頃”ならば日本は経済大国になっていたし技術もあったの

スキ
8

30人のためだけに|塩野七生「日本人へ」

文・塩野七生(作家・在イタリア) 1度だけ、生前の司馬遼太郎と、じっくり話をしたことがある。対談のような仕事の場ではない。同席者も私を初めて先生に紹介した人なので、この大作家に対しても、正直に率直に質問した。先生にとって最も嬉しい読者はどんな人ですか、と。書く自分の意図を正確に受けとってくれる人、という答えを予想していたのだが、先生の答えはちがった。「司馬遼太郎は今、こういうことが書きたかったのだな、と思いながら読んでくれる人」であったのだから。 まったく同感です、と言っ

スキ
34

ワクチン、打ってきました|塩野七生「日本人へ」

文・塩野七生(作家・在イタリア) 政府のトップが大学人のコンテから経済人のドラーギに代わったイタリアの今を一言で言えば、多言不実行から無言実行に変ったといえるかもしれない。ぶらさがり取材はもちろんのこと、ツイッターによる発信も無し。首相だけでなく、大臣たちまでが「無言」になった。首相出席の記者会見さえも昨夜が1回目というのだから、やったとしても月に一度になるのか。コンテの頃は連日であったのに。それでも昨夜の記者会見で、首相ドラーギの統治方針の核はわかった。 優先順位の明確

スキ
13

スーパー・マリオの登場|塩野七生「日本人へ」

文・塩野七生(作家・在イタリア) ヨーロッパで言われる「ワル」には、マイナスのイメージはない。できる奴、の俗な言い方にすぎない。かえって、いい奴と言われるほうが心配で、人は良いけれど仕事となると……の意味になるからだ。 コロナで大変なのにイタリアでは、上下両院ともで過半数を維持できなくなったことで、2年半つづいたコンテ内閣は総辞職した。 民主政に忠実でありたければ、国会は解散して総選挙に訴えねばならないところだが、コロナ騒ぎの行方すら見えない状況下での政治の空白を心配し

スキ
11

ロックダウンしなかったヴェネツィアの例|塩野七生

交易立国による史上初の疫病対策は、「検疫(Quarantine)」の語源になった。/文・塩野七生(作家・在イタリア) <summary> ▶︎世界初の公的な検疫システムを確立したのは中世のヴェネツィア共和国だった ▶︎経済人の国であるヴェネツィア人は、リスクがゼロなんて有りえないことを肌で知っていた ▶︎ヴェネツィア人は、文学作品は産まなかったが、検疫システムを確立し、それを400年も続けた 塩野氏 無人のスペイン階段 2021年1月12日、今日のローマもいかにも南国ら

スキ
27

ほんの小さな思い遣り|塩野七生「日本人へ」

文・塩野七生(作家・在イタリア) アメリカ合衆国の大統領に決まったバイデン下の主要官庁のトップには、軒並みという感じで女たちが登用されるらしい。だがヨーロッパでは、EU政府の首相、ヨーロッパ中央銀行の長、この時期の当番国であるドイツの首相と、すでに3人ともが女で占められているのだ。 こうなってはわれわれ女も、男女差別があったからこその不利などという、盾の向うに逃げこむことも許されなくなった。チャンスは与えられたのだ。それを活用できるか否か、のみが問われる時代に、決定的に入

スキ
17

楽しきフェミニズムはいかが?|塩野七生「日本人へ」

文・塩野七生(作家・在イタリア) 私はこれでも女だから、日本で言われている女性活躍推進には大賛成だが、安倍内閣では党約にもなっていたにもかかわらず、この素晴らしい考えは明らかな成果にはつながらないままで先細りになりそう。なぜか。 答えは簡単で、既得権者たち、つまり男たちが積極的にならないからだが、改革に反対するのは既得権者であること、古今東西変らない真実でもある。それにテキは、はっきりと反対したのでは守旧派と見られるのを怖れてか、ズルイ手まで使う。 一昔前、大新聞の社長

スキ
22

東京とローマの間で|「日本人へ」塩野七生

文・塩野七生(作家・在イタリア) スマートワーキングと呼ぼうが何と言おうが、作家の仕事はもともとからして一人でやるので、コロナ騒ぎは関係ないはずなのである。書き終った原稿を送れば本になるだけならば、地球の裏側に居ようとできる。ところが私には、出版社側から見れば相当に不都合なクセがあるのだ。 それは、本文だけではなく地図や写真を加えることで初めて「作品」になると考えていることで、だから、原稿を書きあげればそれで終りにはならず、表紙から始まってすべてに私が口を出すことになる。

スキ
21

失言の効用|塩野七生「日本人へ」

文・塩野七生(作家・在イタリア) 安倍首相に代わるのは菅官房長官で決まりらしい、との情報は受けていたので菅氏の登場には驚かなかったが、新総理は誰を官房長官に指名するのかには関心を刺激された。首相にとっての官房長官くらい、重要な協力者もないのだから。それで想像を愉しむ気になったのだが、私だったら河野太郎にするだろう。理由は2つ。 第一に、今の日本だからこそ、カラッと明るいキャラが求められること。首相と官房長官という官邸トップの2人ともが湿っぽいと、政府全体まで湿っぽい感じに

スキ
24