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【連載】EXILEになれなくて #11|小林直己

第二幕 EXILEという夢の作り方

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六場 大人が持つ夢 / 叶った夢は、諦めなかったものだけ 

 夢という言葉は、大きな力を持っている。くじけそうな時に踏ん張り、負けそうな時に一歩前に踏み出す勇気をくれる。しかし、同時に残酷でもある。甘美な響きに惑わされ、状況を見誤り、事態を深刻化させる。また、夢を持つということは影響力を生む。夢そのものにピンとこない人たちに対し、大きなプレッシャーを与えるからだ。夢を持たなければいけないのか、と。私自身も、自らの行動理由を説明する上で、「夢」という言葉を多用することがあるが、行動原理としての夢と、空想のような裏付けのない行動を肯定するための夢との、境界線は曖昧にしないようにしている。 

 2020年現在、夢を見にくい時代、とよく言われる。コロナ禍だけでなく、テクノロジーの進化や、情報と物量で飽和状態の日本の現状。様々な要因を以って、夢を見にくい雰囲気が生まれていると感じる。夢が生まれる手順として、「憧れ」が先に立つのであれば、憧れるような対象がない、もしくは、その対象が見えにくくなっているのだろう。今、私たちは、手のひらの中のデバイスで世界の裏側の状況をリアルタイムで知ることができ、また、個人がインターネットを使い、マス・メディアになることもできるようになった。著名人は、エンタテインメントとしてその私生活を公開し、SNSは匿名のまま、その人に意見をぶつけることもできる。世界中は繋がっている。可能性は広がっている。しかし、そう感じられないのはなぜだろうか。

 原因は、もしかしたら教育にあるのかもしれない。これからは、知識の詰め込みだけでなく、自己実現の方法や、自己を確立していくための、手順や道のりを学ぶことが重要になってくるのだろうか。もしくは、社会の制度が追いついていないのかもしれない。島国・日本が、世界中と繋がっている意識が多くの人に生まれることで、生きやすさは変わってくるのだろうか。地球規模で物事を考えられるようになれば、我々にもアドバンテージはある。 長い歴史に裏付けられた確固たる文化を持ち、和暦がこの時代でも当たり前のように使われ、漢字・ひらがな・カタカナという3 つの文字を使いこなすなど、世界でも珍しい言語体系を持つこの日本には、まだまだ可能性はあるはずだ。僕は、そう信じている。 

 僕には、叶った夢がある。EXILEに加入できたこと、三代目 J SOUL BROTHERSでドームツアーを行えたこと、俳優として海外制作の作品に出演したこと……。幼い頃の自分に話したとしても、到底、信じられないようなことが、この十数年で身の回りに起きた。自らの努力も多少あったとは思うが、それ以上に、周りの人々に支えられ、 引っ張り上げてもらったことにより、そのフィールドに立たせてもらったことが、大きいと感じている。

 そして、同時に僕には、叶わなかった夢がたくさんある。ここに羅列できないほどの多くの夢だ。実力が足りなかったり、タイミングが合わなかったり、また、どうにもならないことが起きてしまい、実現できなかった。 

 叶えられなかった夢もある。途中で叶えることをやめてしまったもの、夢じゃなくなったもの。諦めたものだって多くある。限界に気づき、耐えられなかったものも。また、自分が中途半端に夢見たことで、人を傷つけてしまったこともあった。無意識に迷惑をかけてしまった人も多くいるだろう。夢を見たことで大きな失敗を引き起こし、「自分には大きすぎる夢だったんだ」「夢を見る資格があるんだろうか」と、自己否定を引き起こしてしまったことだってある。

 多くの夢と向き合い、同時に、自分自身にも向き合ってきた。結果的には、夢というものを持つことで、何かしら前に進むことができたので、今の所、夢というものは僕にはプラスに働いている。しかし、同時に失敗や恐ろしさも経験したことで、夢を見ることに怖さも感じている。夢なんか、見られなくなればいい。おかしなことだが、そんなことを思ったりもする。 

 大人になっていく過程で、夢の見方は変わっていく。夢以上に優先するものは、この世にたくさんある。時間には限りがあるし、体力には限界がある。何を優先するかは、その本人にしかわからないものだ。 

 夢を見る必要があるのか、と考えると、わからなくなってしまう自分がいる。しかし、 夢を見せる必要があるのか、と聞かれると、迷うことなく「YES」と答える自分がいる。明日を生きる希望が、日々を輝かせていく。それは大人になった今でも、変わらない。人間、生きていくと、不意にこう思うことがある。「この世に生きている意味なんて、ないんじゃないか」と。私も、何度も頭によぎったことがある。おそらく、生きている意味なんてない。存在意義なんて、元々、ないんだろう。だからこそ、自分で自分の機嫌を取り、その意味を見出していくことも、大切なんじゃないかと考えた。こんな時代だからこそ。

 叶った夢があり、叶わなかった夢がある。叶えられなかった夢もある中で、振り返って考えると、叶った夢は「諦めなかったもの」だけだった。時間をかけても、状況が変わっても、諦めることができない夢。きっと夢は、諦めなくても良いものかもしれない。 ノラリ、クラリ、と日々を過ごしながら、心の奥底にある小さな火種だけは消さないでいる。 それだけで、自分を褒めてあげればいい。

 夢は環境や状況にものすごく左右される。ただ生きるだけで、実現できる可能性は、どんどんと変わっていく。さらに、夢は変化していくものだ。 周りの人を巻き込み、影響され、かたちは変わっていく。 

 それすらも受け入れて、あとは、タイミングを見計らい、叶いやすいものから実現していけばいい。当初考えていたものより、ずっと小さな夢になった印象を覚えるかもしれないが、 叶えた瞬間、自らの内に生まれる反応は、予想していたそれよりも、何十倍も大きいはずだ。その小さな自己実現が、自らの人生に立ち戻らせてくれる。大人の夢というものは、あの日、あの時、あの場所で、生まれた後悔の念を晴らしていくこと。それが、明日を生きる理由の一つになっていくのかもしれない。 

(# 12 につづく)

■小林直己
千葉県出身。幼少の頃より音楽に触れ、17歳からダンスをはじめる。
現在では、EXILE、三代目 J SOUL BROTHERSの2つのグループを兼任しながら、表現の幅を広げ、Netflixオリジナル映画『アースクエイクバード』に出演するなど、役者としても活動している。

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