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朝ドラ「エール」で話題の古関裕而メロディー、本当に聞くべき珍曲はこれだ!

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※本連載は第11回です。最初から読む方はこちら。

「ホントは、いつもこれだけをやっていられると楽しいんですけど、これはまったくの趣味ですからね(笑)。ようするに、自然保護の問題をどうのこうのとか、少女の自立がどうのこうのとかね、そういうのは一切ヌキ! もう、とにかく!!」

 宮崎駿は『宮崎駿の雑想ノート』の序文において、いささか異様なテンションでこう述べている。ここでいう趣味とは、もちろん「軍事関係のこと」。宮崎駿のミリタリー趣味は、斯界でつとに有名である。

 その言にたがわず、宮崎は同書で甲鉄艦や多砲塔戦車、高射砲塔、飛行艇などの漫画をこれでもかと載せるのみならず、巻末の対談では、ドイツや日本の戦車について、実にマニアックな会話を繰り広げている。「ドイツ人はね、垂直におっ立てたクルップの鋼鉄で跳ね返すんだってね、ウシシシ」。

 この際どい発言を思い出したのはほかでもない、先日来、古関裕而について新聞や雑誌の取材を受け続けているからである。

 この朝ドラ主人公のモデルについて、筆者が評伝を出したばかりなので仕方ないのだが、そこでは、どうしても真面目な話が中心になってしまう。

「古関は軍歌を作っていますが、戦争協力への反省は?」「オリンピック・マーチにこめられた思いとは?」「昭和史をいま書く意味とは?」――。

 もちろん、どれも重要だし、取材はありがたい。だが、そういうカタクルシイ問題意識だけで古関の評伝を書こうはずもなかった。筆者は、その作品、いやもっとはっきりいえば軍歌の魔力にも魅せられたのである。

 とはいえ、そんなマニアックな話ができる場所などないのだから、自分で書くしかない。というわけで、以下は、ポリコレとか、政治問題とか、一切ヌキ! 独断と偏見で、「これを聞け!」という古関メロディーのオススメ珍曲を厳選して3つ紹介する。朝ドラでは絶対に聞けない世界がそこにあるはずだ。

①「アメリカ爆撃」(野村俊夫作詞、1942年発売)

 では、さっそく行ってみよう。まず、古関メロディーといえばこれ。日本軍が快進撃を続けていた、その勢いをそのまま写し取ったような一品である。

 なにより、タイトルがバカバカしいまでに直接的でいい。アメリカ爆撃。前奏もそれに負けていない。まるで太平洋をスイスイと渡っていくような、明るさとノリの良さで満ち溢れている。

 そして、「ア、メ、リ、カ、本、土、爆、撃!」とはじまり、「あれは、アメリカ、弔う歌だ」「悲鳴を、吐くまで、やるぞ」とくる。この調子に乗っている感じがとても空疎でよろしい。

 それもそのはず、この歌が作られたときには、まだアメリカ本土爆撃は実現していなかった。つまり、妄想の産物なのである。一度聞けばわかるが、これは「いやいや作った」類の歌ではない。国全体が浮足立つとは、こういうことをいうのだろう。

②「みんな揃つて翼賛だ」(西条八十作詞、1941年発売)

 童謡で知られる西条八十先生、軍歌はあまり好まなかったと仰せだが、どうしてどうして、残された作品はけっこうノリノリなものも少なくない。

「みんな揃つて翼賛だ」は、大政翼賛会の発足にあわせた便乗ソングだが、「戦死した気で大政翼賛」という迷文句で、聞いたものの心にイヤな爪痕を残してくれる。その上、「みんな捧げろ、国のため、国のため、ホイ」と続き、「グンとやれやれ、グンとやれ」で終わる。なんという筆力の無駄づかい。

 ホイというノリで、グングン大政翼賛し、戦死し、国にすべて捧げてしまう。古関の絶妙な明るいメロディーは、その意味不明なロジックをうまく包み込む。こちらも作曲の妙技。ずっと聞いていると、脳が溶けてしまいそうだ。

③「特別攻撃隊『斬込隊』」(勝承夫作詞、1945年放送)

 戦争末期はある意味、宝庫。あの有名な作詞家が、作曲家が、歌手が、トンデモナイ真っ黒な歌を作っている。これもそのひとつ。タイトルからして、ただならぬ妖気が漂っているではないか。

 当然、歌詞はより凄まじい。「あわてふためく敵のなか、弾薬砲座爆破し回り、縦横無尽に斬りまくる」。その名のとおり、陸上の特攻、斬込隊をテーマにしたものである。

 この歌はラジオで放送されただけで、長らく録音がなかった。だが、声楽家の藍川由美が1990年代後半になってなんと新たに吹き込んでくれた。「レクイエム『ああ此の涙をいかにせむ』古関裕而歌曲集2」(日本コロムビア)に収録のものがそれだ。

「なんでこの曲を」と問うのは野暮。歴史資料であり、忘れられた作品のひとつということなのだろう。ただ、筆者のような者は、かかる際どい歌の復元に、感謝のカンパイを捧げるばかりなのである。

 おいおい、物騒な歌ばかりじゃないか、といわれるかもしれない。でもこういう曲に引かれたのだから仕方がない。

 これだけだとあんまりなので、最後に宮崎駿の同じ序文から別の部分を引いて筆をおきたい。筆者はこれにあえて付け足す言葉を持たない。

「あんまり人に自慢できる趣味じゃないんですが、ようするに軍事関係のことが好きなんですね。くだらないなァと思いながらも、軍事関係のことが好きなんです。

 なんと愚かなことをするんだろう……と思いながら、なんてバカなんだろうと思いながら戦記などを読んでいるんです。でも、愚かだとわかりつつも、狂気の情熱みたいなものが、どこかで好きなんですね」

(連載第11回)
★第12回を読む。

■辻田真佐憲(つじた・まさのり/Masanori TSUJITA)
1984年、大阪府生まれ。作家・近現代史研究者。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院文学研究科中退。政治と文化芸術の関係を主なテーマに、著述、調査、評論、レビュー、インタビューなどを幅広く手がけている。著書に『天皇のお言葉』『大本営発表』『ふしぎな君が代』『日本の軍歌』(以上、幻冬舎新書)、『空気の検閲』(光文社新書)、『文部省の研究』(文春新書)、『たのしいプロパガンダ』(イースト新書Q)、『愛国とレコード』(えにし書房)などがある。監修に『満洲帝国ビジュアル大全』(洋泉社)など多数。軍事史学会正会員、日本文藝家協会会員。
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