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#読書

文藝春秋digital読者の皆さまへ、編集長より最後のお願い【「文藝春秋 電子版」1年無料プランのご案内】《このキャンペーンは終了しました》

5月31日、「文藝春秋digital」はクローズいたします。 これまで「文藝春秋digital」をご愛読いただきまして、誠にありがとうございました。 先にもお知らせした通り、月刊文藝春秋のサブスクリプションは「文藝春秋 電子版」に一本化します。これまで「文藝春秋digital」をご愛読いただいた皆さまには、突然のお知らせになったことを、改めてお詫び申し上げます。 「文藝春秋digital」のサービスが終了しますと、6月から皆さまに最新記事をお届けできなくなってしまいます

川上未映子「黄色い家」

「金銭」と「赦し」 美術史を語るとき、「黄色い家」は忘れがたい。1888年、ゴッホとゴーギャンがともに暮らしたアルルの家は、陽光を浴びると黄色に染まった。「ひまわり」を始め、ゴッホは多くの名画をここで生み出すのだが、錯乱ののち自分の耳を切り落とす事件によって破綻を迎える。  いっぽう、長編小説「黄色い家」では、疑似家族を思わせる女4人が共同生活を営む。黄色は、彼女らを翻弄する金銭のメタファー。キラキラ、チャリンチャリンと金が動くたび、スリリングな疾走感に煽られてページを繰る

「母という呪縛 娘という牢獄」齊藤彩さんインタビュー 著者は語る

 2018年3月、滋賀県守山市野洲川の河川敷で、頭部や手足が切断された50代女性の遺体が見つかった。同年6月に逮捕されたのは、被害者の長女、髙崎あかり(仮名:当時31)。その後の公判で浮かび上がったのは、母親に医師になることを強要され、9年もの浪人生活を送った娘の壮絶な半生だった。

今月買った本 橘玲

科学と正義 東京オリンピック開会式をめぐる騒動で日本でも「キャンセルカルチャー」が知られるようになったが、アメリカではリベラルな知識人が左派(レフト)からキャンセルされている。その理論的な背景を説明するのが『「社会正義」はいつも正しい』で、フーコーやデリダなど、日本でも80年代に流行したフランスのポストモダン哲学がアメリカに移植されて奇妙に変容し、「SJW(社会正義の戦士)」の理論になったと論じる。

ジョン・A・リスト著、高遠裕子訳「そのビジネス、経済学でスケールできます。」

実践例が満載 スケールできるとは、どういうことか。要はビジネスや調査研究などの場面で、初期の成果を発展させる手法のことなのです。

ク・ビョンモ著、小山内園子訳「破果」

女性殺し屋におとずれた「老い」 表紙カバーの写真の女の手には深く皺が刻まれ、青い血管が浮き出ている。『破果』の女主人公は、「爪角(チョガク)」という偽名を使う、65歳の殺し屋だ。

佐久間文子 土地を知り、人を想う 続100年後まで読み継ぎたい100冊

 土地とのかかわりがくっきりと刻まれた本を選んだ。 『津軽』は、東京に出た作家が久しぶりの故郷で懐かしい津軽人と出会う「津軽風土記」。自身の津軽人性を再発見するたび、身もだえする。「ふだんは人一倍はにかみや」なのに、時にタガが外れた愛情表現で人をもてなしてしまう津軽人のふるまいの描かれかたは、太宰その人の自画像でもある。自虐を炸裂させる強烈なユーモアは、100年後の読者にも同じように届くと思う。  もう少しクールに、自分がひととき暮らすことにした「浦粕」の街を、良いところ

池上彰 古典から資本主義を紐解く 続100年後まで読み継ぎたい100冊

 ロシアによるウクライナ侵攻で、ロシア文学は人気薄になっているようですが、やはりドストエフスキーは必読。『罪と罰』は、人間の生き方を考えさせられます。ラスコーリニコフのような考え方は、どこから来るのか。  ここは経済の観点でカール・マルクスの『資本論』を紐解くところから始めましょう。経済学に馴染みのない人はたじろぐかも知れませんが、マルクスの粘着質な筆致は一見の価値があります。  そもそも経済学の父と呼ばれるのはアダム・スミス。その『国富論』を読むと、「見えざる手」という

佐藤優 超一級の知識人が説く情報の読み解き方 『知の編集工学』松岡正剛 ベストセラーで読む日本の近現代史112

 編集工学研究所所長でイシス編集学校校長をつとめる松岡正剛氏(1944年生まれ)は、日本の政治、経済、学術、文化などのエリート層に影響を与えている超一級の知識人である。その実質的影響力と比べるとマスメディアでの扱いは地味だ。松岡氏自身が知的質を維持するためにはマスメディアによる大量消費から距離を置く必要を自覚しているからだと思う。評者は内閣情報調査室や公安調査庁の若手インテリジェンス・オフィサーには松岡氏の作品を熟読することを勧めている。評者の手許にある『知の編集工学』は、2

佐藤優 ニヒリズムを身体化した思想家/『1%の努力』ひろゆき ベストセラーで読む日本の近現代史111

「2ちゃんねる」の開設者で、現在は英語圏最大の掲示板「4chan」の管理人であるひろゆき(西村博之)氏は、現下日本でもっとも影響力を持つ論壇人の一人だ。最近では沖縄の辺野古新基地建設に反対する人々の運動に対するひろゆき氏の言説が、賛否両論の激しい反応を生み出した。評者は辺野古新基地建設に反対なので今回のひろゆき氏の言説には強い違和感を覚える。 しかし、ひろゆき氏に「炎上商法だ」「差別主義者だ」というレッテルを貼って、単純に問題を処理してしまうことには反対だ。こういうアプロー

橘玲「陰謀論と非合理」 今月買った本

陰謀論と非合理陰謀論やフェイクニュースが蔓延し、理性を前提とした制度が揺らいでいる。だが『人はどこまで合理的か』でスティーブン・ピンカーは、人間は愚かだが、その一方で賢くもあり、だからこそ驚異的な文明をつくりあげたのだと説く。人類がこれからも進歩し続けるには、合理性が人生や社会の役に立つことを啓蒙していかなくてはならない。 シリコンバレーの起業家・投資家でもあるネットワーク研究者が、大量の研究をもとに、SNSが疑似現実をつくりあげ、フェイクニュースを拡散していく仕組みを論じ

梯久美子「あこがれ(瀬戸内寂聴)」 文藝春秋BOOK倶楽部

寂聴、最後の小説集広島での被爆体験を描いた『夏の花』で知られる作家の原民喜は、45歳で自死した。義弟の佐々木基一に宛てた遺書には、岸を離れる船の甲板に立って、陸地を眺める自分が描かれている。陸地は現世であり、そこから船に乗って死者の国へ向かうというイメージだ。 99歳で大往生をとげた瀬戸内寂聴が幻視したのは、この世とあの世の境界を、飛行機でこえてゆく自分である。 ずしんとした圧迫を下半身に感じて軽い眠りから目覚めた「私」は、大きな飛行機の中にいた。妙にゆっくりした動作で身

池上彰「教養としての「ラテン語の授業」」古代ローマに学ぶリベラルアーツの源流 文藝春秋BOOK倶楽部

世界的ベストセラーが日本上陸題名を見ると身構えてしまう人がいるかもしれません。なにせ「ラテン語の授業」ですから。 でも、大丈夫。いまブームになっている感のあるリベラルアーツの原点である古代ローマの言葉が、いかに世界の教養のもとになっているかを知るエッセイ集です。 著者は韓国ソウルの大学でラテン語講座を持っていました。そこでの経験を、著者は古代ローマの哲学者セネカの言葉を引用して表現します。〈人は教えている間に、学ぶ Homines, dum docent, discunt

「語学の天才まで1億光年」著者・高野秀行インタビュー

「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」とのポリシーを掲げ、謎の国・ソマリランドに潜入したり、アジアやアフリカ各地の納豆を調査したりと、辺境地を旅してきた高野秀行氏。取材先へ向かう前に必ずその地域の言語を学ぶというが、これまで学んだ言語は25以上にも及ぶ。本書は、そんな著者の数々の言語体験をまとめた一冊だ。 「最も思い出深いのは、大学時代のアフリカ・コンゴへの探検です。コンゴの公用語はフランス語ですが、それに加えて、共通語であるリンガラ語も事