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#仁義なきヤクザ映画史

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伊藤彰彦 逸脱者たちの未来──「歴史の闇」は「新しい倫理」に生まれ変わるか 仁義なきヤクザ映画史 最終回

 1980年代後半、バブル経済の隆盛とともにヤクザ社会は肥え太っていく。一方、東映ヤクザ映画は『極道の妻(おんな)たち』以外に新機軸を見つけられず、低迷した。そしてバブル崩壊後の92年に施行された「暴力団対策法」は、ヤクザ社会とヤクザ映画にともに決定的な打撃を与えた。  脚本家の笠原和夫は、ヤクザ映画を書かなくなった理由を、2002年に刊行された『昭和の劇 映画脚本家笠原和夫』(笠原和夫、荒井晴彦、絓秀実共著)でこう語っている。  現代劇として「経済ヤクザ」を描くなら、四

伊藤彰彦 フィクションを模倣した銃撃──『北陸代理戦争』事件とヤクザ映画の奈落 仁義なきヤクザ映画史 第11回

 1977年4月13日。日本海側の鄙(ひな)びた町に4発の銃声が轟いた。

伊藤彰彦 「山口組の戦後史──日本最大の任侠組織を描いた映画」 仁義なきヤクザ映画史10

「正義を貫くのが真のヤクザや」 1973年8月11日。全国の東映系封切館で、日本最大のヤクザ組織の組長、田岡一雄の自叙伝を映画化した『山口組三代目』(山下耕作監督)が公開された(併映作は『夜の歌謡シリーズ なみだ恋』[斎藤武市監督])。当時小学生だった私は、通学路にあった劇場の看板の前を通るたび、見てはならないものを見た気がした。小学生でも知っている“山菱の代紋”とあの高倉健が並んでいたのだ。暴力団排除条例が施行された現在では考えられないこの大胆不敵な映画は、73年の時点でも

伊藤彰彦 「ヤクザとマイノリティ──民族と差別が葛藤する只中で」 仁義なきヤクザ映画史9

日韓の歴史の狭間に連続ドラマ『Pachinko パチンコ』(2022年、コゴナダ+ジャスティン・チョン共同監督、Apple TV+で配信中)が面白い。原作は、オバマ元アメリカ大統領も絶賛し、2017年の「ニューヨーク・タイムズ」紙のベスト10に選ばれた、韓国系アメリカ人作家、ミン・ジン・リーのベストセラー小説である。韓国、アメリカ、カナダ合作の全8話の多くの物語が日本を舞台としており、登場人物の多くが日本語を話す。物語は、日本統治下の1910年代の韓国釜山から始まり、23年の

テロリストとヤクザ——背中合わせの両者が抱えた「歴史の妖気」 仁義なきヤクザ映画史(8) 伊藤彰彦

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東映任侠映画の「異業」——日本近現代史の陰画を描いた235本 仁義なきヤクザ映画史(7) 伊藤彰彦

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「かつて民衆とヤクザは共闘した――自由民権運動の真実」仁義なきヤクザ映画史(6) 伊藤彰彦

「おめえさん方とともに尽力いたしやしょう」――。神山征二郎『草の乱』(2004)/文・伊藤彰彦(映画史家) ★前回を読む。 「板垣死すとも自由は死せず」 幕末維新において権力に利用されて使い捨てられたヤクザが、初めて権力に立ち向かったのが自由民権運動の時代、1884(明治17)年に起きた「名古屋事件」「群馬事件」「秩父事件」などの「激化事件」であった。 そもそも自由民権運動は、NHK大河ドラマ『西郷(せご)どん』(2018年)で鈴木亮平の西郷隆盛、渋川清彦の板垣退助、瑛太

『ゴッドファーザー』と『仁義なき戦い』「仁義なきヤクザ映画史」特別編 伊藤彰彦

今から50年前、反乱の季節の終わりに日米で大ヒットした第一級エンターテインメント。だが、その内実は真逆だった。/文・伊藤彰彦(映画史家) ★前回を読む。 反社会的な集団を描いた映画 2022年は『ゴッドファーザー』(フランシス・フォード・コッポラ監督)が、23年は『仁義なき戦い』(深作欣二監督)が公開されてから50周年となる。ともにマフィアやヤクザを描いた特異な「ジャンル映画」でありながら、『ゴッドファーザー』はAFI(アメリカン・フィルム・インスティテュート)や英国映画協

仁義なきヤクザ映画史⑤「権力との危険な関係――清水次郎長と黒駒勝蔵」伊藤彰彦

「ダレカワスレチャ イマセンカ」――。マキノ雅弘『次郎長三国志』9部作(1952~54)/文・伊藤彰彦(映画史家) ★前回を読む。 「ヤクザのやらないことをやったから」 2020年、静岡市では「次郎長生誕200年記念事業」として、講談、クラシックコンサート、講演会が開催され、チラシには公共事業家として清水港の発展に寄与した清水次郎長の功績が大々的に謳われた。 次郎長(本名=山本長五郎)の生家は廻船問屋(数隻の船を持ち、塩や米や薪炭などを船に積んで売りさばく商売)。次男の彼

仁義なきヤクザ映画史④ 伊藤彰彦「長谷川伸が描いた『アウトローの倫理』」

「やくざってのはねえ、虫ケラみていなもんさ」——。加藤泰『沓掛時次郎 遊俠一匹』(1966)/文・伊藤彰彦(映画史家) ★前回を読む。 明治30年代の最底辺2022年3月、映画評論家の佐藤忠男が91歳で、作家の宮崎学が76歳で、映画監督の青山真治が57歳の若さで他界した。 佐藤は名著『長谷川伸論』を著し、「昭和初期からの日本の大衆文化においてヤクザものが大きな位置を占めるにいたったのは、長谷川伸の股旅ものの芝居の成功による」と書いた。 青山真治は『東京公園』(2011

新連載 仁義なきヤクザ映画史③「国定忠治が大衆の欲望を乱反射する」伊藤彰彦

大河内傳次郎のニヒリズム——。伊藤大輔『忠次旅日記』(1927)/文・伊藤彰彦(映画史家) ★前回を読む。 ヤクザ者とはいつどのように生まれたのか日本映画最初のヤクザ映画(当時は侠客物)とは何か? それは、“目玉の松ちゃん”の愛称で親しまれた日本映画最初のスター、尾上松之助が主演した『侠客 祐天吉松』(1910年、横田商会製作)と思われる。講談で有名な、背中に彫物を背負った元掏摸が流転していく物語だ。 「この作品はフィルムも残っていませんし、監督名すら分かりません。ただ

《新連載》仁義なきヤクザ映画史②「狐狼の血」 伊藤彰彦

『仁義なき』シリーズの広島で全編ロケ――。白石和彌『孤狼の血』(2018)/文・伊藤彰彦(映画史家) ★前回を読む。 ヤクザに密着取材 2010年の暴力団排除条例の施行以降、ヤクザは銀行口座を開設できず、携帯電話も購入できなくなるなど著しい生活の制限を受けた。そんなヤクザの現況をあからさまに描いた一本のドキュメンタリーが様々な議論を呼ぶ。2015年に東海テレビで放送後、全国の映画館で上映された『ヤクザと憲法』(圡方宏史監督)である。 『ヤクザと憲法』以前に、ヤクザの生活

新連載「仁義なきヤクザ映画史」① 日本百年の闇をあばく 伊藤彰彦

娑婆で傷つく元受刑者――西川美和『すばらしき世界』(2021)/文・伊藤彰彦(映画史家) 民衆とともに生きたヤクザ 1929年、妻と離婚し、父親の看病のために故郷前橋に戻らざるをえなかった詩人の萩原朔太郎は、自宅から20キロの所にある国定忠治の墓まで自転車で行き、こう詠んだ。 見よ 此処に無用の石/路傍の笹の風に吹かれて/無頼の眠りたる墓は立てり(「国定忠治の墓」) 国定忠治は殺人や関所破りの廉で磔刑にされた侠客。近代人の孤独を震えるような繊細さで表現した朔太郎は、終生