文藝春秋digital

【新連載】ハコウマに乗って|ふしぎなおもち|西川美和

ふしぎなおもち 広島に住む大正14年生まれの伯母は、物忘れが多くなった。 子供がおらず、大学で英語を教えていた夫は20年前、夕餉の卓でおちょこ一杯の日本酒を「美味しいですねえ」と舐めながら眠るように逝き、以後は小さな戸建に一人で暮らしている。 超がつくほどの綺麗好きで、帰省したおり手…

飢えた幼児が爺になって|辻真先

文・辻真先(作家) 毎年恒例のミステリベストテン選出で、たまたま三誌の首位がぼく、それも88歳といいトシこいてトップというので、あちこちからお座敷がかかる。ありがたいことだ。一昨年の日本ミステリー文学大賞受賞のときも、トシが話題になった。日本は世界に冠たる老人大国なのだから、最高齢…

大相撲新風録 照ノ富士|佐藤祥子

照ノ富士(モンゴル・ウランバートル出身、伊勢ヶ濱部屋、29歳) 序二段から大関復帰の快挙を 「大横綱でも味わったことのない楽しさを味わっているのかも。相撲人生を2回楽しんでいるというか――。新十両になった時とか、番付が上がっていく時って、みんなうれしくて心に残っていると思うんです…

スターは楽し ジム・キャリー|芝山幹郎

ジム・キャリー ©AF Archive/Universal/Mary Evans Picture Library/共同通信イメージズ ナンセンスが噴火する 1990年代の中盤、ジム・キャリーが噴火した。爆発というより噴火。一過性の破裂ではなく、溶岩の連続的な噴出。94年だけでも『エース・ベンチュラ』、『マスク』、『ジム・キャリーは…

面子と忖度|藤原正彦「古風堂々」

文・藤原正彦(作家・数学者) 東京五輪の組織委員長である森元首相が、「女性のたくさん入っている理事会の会議は時間がかかる。一人の女性が発言すると次々に発言する。女性の話は長い」という趣旨のことを言った。早速海外メディアに取り上げられ「女性差別」と非難された。これを受けて我が国では…

父 中村哲のこと|中村秋子

文・中村秋子(ペシャワール会会員) 父がアフガニスタンで凶弾に倒れてから1年以上が経ちました。いつも危険を承知で行くのを送り出していたからでしょうか、事件を知ったときは「起きてほしくはなかったけど、お疲れさまでした」と冷静に受け止めました。 父をアフガニスタンまで迎えに行く機中で…

スーパー・マリオの登場|塩野七生「日本人へ」

文・塩野七生(作家・在イタリア) ヨーロッパで言われる「ワル」には、マイナスのイメージはない。できる奴、の俗な言い方にすぎない。かえって、いい奴と言われるほうが心配で、人は良いけれど仕事となると……の意味になるからだ。 コロナで大変なのにイタリアでは、上下両院ともで過半数を維持で…

インドで柿の種|河野純

文・河野純(Daawat Kameda India 副社長) 皆さんはインドにどのようなイメージをお持ちだろうか? 「多様な民族・言語」「世界遺産」を思い浮かべる方も多いだろうが、最も多くの人の頭に浮かぶのは「カレー」ではないだろうか。 カレーといえばごはんがつきものであり、インドも大きく分けて北部…

ただただ申し訳ない|釈徹宗

著名人が母親との思い出を回顧します。今回の語り手は、釈徹宗さん(僧侶)です。 私の母は平成30年の12月に今生の息を引き取りました。満81歳でした。60歳を過ぎたあたりから、次第に自らの死への準備を始めていましたね。当時はまだ終活などという言葉もありませんでしたが、自身の身仕舞いについて…

マウスを握った手|萩原健太

著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、萩原健太さん(音楽評論家)です。 父は判事だった。裁判官。「じゃ、お父さん、厳しかった?」とよく訊かれる。確かに。厳格というほどではないが、何事にも理詰めに、真面目に接する男ではあったけれど。ぼくたち家族に対しては、柔軟なユーモ…